あまりにも私的な少女幻想、あるいは束の間の光の雫。少女少年・映画・音楽・文学・絵画・神話・妖精たちとの美しきロマンの旅路♪


by chouchou
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★『沈黙の女 ロウフィールド館の惨劇』はクロード・シャブロル監督だし、主演がサンドリーヌ・ボネールとイザベル・ユペールなのでとても期待して鑑賞した1995年作品で、これまで数回観返してもいる。原作はルース・レンデル(Ruth Rendell:1930年2月17日、イギリス・ロンドン生まれ)で、別名バーバラ・ヴァインとしても知られる英国の推理作家の1977年小説。クロード・シャブロル監督はルース・レンデル原作の『石の微笑』も2004年に映画化されているのでお気に入り作家なのでしょう。

このルース・レンデルの『ロウフィールド館の惨劇』は先述のチャールズ・ディケンズの『荒涼館』からの影響を受けたもので、この原作を友人に奨められて先に読んでいたのです。読後に残った重苦しさのようなものと同時に何かが引っかかっていたように想う。映画化されてから後に、再び原作を読み返すとその気になる部分が鮮明化されたような晴れ晴れしい気持ちにもなれたものです。主人公のユーニス・パーチマン(映画の中ではソフィー)の幼き頃からずっと背負ってきた運命のようなもの、文盲(非識字者)であるが故の苦悩を想像してしまう。ルース・レンデルもユーニスに対して大惨事を引き起こした犯罪者ながら何か根性悪の悪人とは描いてはいない。小説の冒頭からあっさりと事件の動機が記されている。

ユーニス・パーチマンがカヴァデイル一家を殺したのは、読み書きができなかったためである。これという動機や予測もなく、金のためでもなければ身の安全を守るためでもなかった。

そして、もう一人の女性ジョーン・スミス(映画の中ではジャンヌ)は狂女として描かれている。しかしながら、このユーニスとジョーン(ソフィーとジャンヌ)は互いに暗い過去を持ち合わせており、心の奥底で何か共鳴し合うものがあった。小説の中でユーニスが母親を想い出す場面がある。僅か一行ながら其処で私はユーニスの少女の頃をふと考えてしまった。映画ではその後の裁判までは描かれていないけれど、あのいかにもシャブロルならではの終わり方はとても好きでもある。オペラが流れる中の二人の女性の破滅の行動は、見事に音楽的にも想えた。サンドリーヌ・ボネールイザベル・ユペールはお互いの演技を邪魔しない演技力のあるお二人であり、シャブロル作品とも縁の深い女優方でもあるので、"凄い!"と圧倒されてしまった。ジャクリーン・ビセットも10代の頃からのファンなので相変わらずお美しいお姿を拝見でき、監督、キャスト、原作、脚本、音楽と、とても私には豪華な作品に想えます。

原作に戻ると、ロウフィールド館の庭園は草木が伸び放題で荒れ果てていた、ユーニスが去ってからは。

館はいまや廃屋となり、ディケンズが、希望、よろこび、青春、平和、安息、命、ちり、もえがら、ごみ、欠乏、破滅、絶望、狂気、死、狡猾、愚昧、言葉、からす、くず、羊皮紙、強奪、先例、隠語、たわごと、ほうれん草と名付けた小鳥たちの巣にふさわしいたたずまいとなった。

と書かれており、最後はこう終える。

ちり、もえがら、ごみ、欠乏、破滅、絶望、狂気、死、狡猾、愚昧、言葉、からす、くず、羊皮紙、強奪、先例、隠語、たわごと、ほうれん草。

もうユーニスにとって、すべて手遅れなのだ。ユーニスの弁護士が、世界に、判事に検察官に警察に一般の傍聴者に、記者席でせっせとメモを取る新聞記者に、彼女が読み書きができないと語ったときに。「あなたは字が読めないのですか?」と判事に促され、ユーニスは真っ赤な顔をして顫えながら答える。そして、彼女のような障害を持たぬ人がそれを書き留めるのを見る。彼らはユーニスを励まし更生させようとするが、彼女はがんとして拒んだ。もうすべて手遅れなのだった。

きっと奇妙なことに違いない。ジョーのような状態で生きているのは!

この言葉はディケンズの『荒涼館』に登場する文盲の浮浪児ジョーの描写の一部です。19世紀のイギリスと20世紀は違うけれど、今もなお、世界中に多くの非識字者が存在するのだから、決して昔のことでもないと想う。印象的なのは、シャブロル映画の中でのソフィーは自室でとにかくテレビを観ている。読書などできないので、テレビの音声と画面、画像からことばを得ている。仲良くなるジャンヌにさえ、非識字者であることはひた隠しにしていた。どんなにユーニス(ソフィー)にとって、その事を暴かれることが怖かっただろうか...。犯罪の擁護ではなく、一人の女性の運命と破滅に至る悲劇もまた、原作、映画共に私に投げかけるものなのでした。

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沈黙の女 ロウフィールド館の惨劇/LA CEREMONIE
1995年・フランス映画
監督:クロード・シャブロル 製作:マラン・カルミッツ
原作:ルース・レンデル 『ロウフィールド館の惨劇』 
脚本:クロード・シャブロル、カロリーヌ・エリアシェフ
撮影:ベルナール・ジツェルマン 音楽:マチュー・シャブロル
出演:サンドリーヌ・ボネール、イザベル・ユペール、ジャクリーン・ビセット、ジャン=ピエール・カッセル、ヴィルジニー・ルドワイヤン、ヴァランタン・メルレ、ジュリアン・ロシュフォール

【あらすじ】 サン・マロの外れの大きな屋敷に住むカトリーヌ(ジャクリーン・ビセット)が、新しい家政婦ソフィー(サンドリーヌ・ボネール)を雇った。夫ジョルジュ(ジャン=ピエール・カッセル)や連れ子のジル(ヴァランタン・メルレ)もソフィーの仕事に満足する。大学生で週末だけ家に戻ってくるジョルジュの連れ子ミリンダ(ヴィルジニ・ルドワイヤン)は親切だ。だが実は彼女は非識字者で、そのことに強烈なコンプレックスを感じ、ひた隠しにしていた。郵便局員のジャンヌ(イザベル・ユペール)は彼女に興味を持ち、やがて親友になり、テレビを見るため度々屋敷に来た。ジャンヌはかつてわが子を殺したという噂のある女で、ブルジョワ一家に強烈な敵意を持っていた。彼女を毛嫌いしているジョルジュは、ソフィーに二度と家に連れてこないように言う。一方ソフィーにも、痛風で寝たきりだった父を殺した嫌疑をかけられた過去があった。二人の女は奇妙な共犯意識に結ばれる。ある日の午後、ミリンダが突然帰ってきて、ロンドンにいる恋人のジェレミーに電話をするという。ソフィーはその電話をこっそり盗み聞きする。ミリンダは妊娠していたのだ。その後、ミリンダがふとしたことからソフィーが非識字者であることを見抜いた。「読み方を教えてあげる」というミリンダに、ソフィーは口外したら妊娠のことを父親に暴露すると脅す。ショックを受けたミリンダは一部始終を両親に明かし、ジョルジュは即刻ソフィーに解雇を言い渡す。一週間以内に出ていくよう言われたソフィーを、ジャンヌが一緒にやっていこうと誘う。二人はソフィーの荷物を取りに屋敷に戻る。一家はテレビを見ていた。その隙に屋敷を見て回るうち、ジャンヌの行動は次第に常軌を逸し、二人は夫婦の寝室を荒らし、壁に飾られた猟銃を手に取る。ちょうど二人は台所でジョルジュを、居間でカトリーヌとミリンダ、ジルを次々と射殺。ジャンヌは記念にと居間にあったラジカセを持って車に戻る。後はソフィーが偽装工作をし、警察に強盗事件として通報する手筈だった。ところが表の通りでジャンヌの車のバッテリーが上がり、暗い夜道に立ち往生しているところを、司祭と愛人が乗った車が衝突。パトカーの音を聞いて表に出たソフィーは、ジャンヌの死体が運ばれていくのを見る。そして警官が車の中のラジカセを再生した。それはミリンダがちょうどテレビで見ていたオペラ『ドン・ジョヴァンニ』を録音しようとセットしていたものだった。軽妙なセレナーデの途中で、突然銃声が響く。そして「うまくやったわ」というジャンヌの声が……ソフィーは黙ったまま夜の田舎路を去っていく。

主演のサンドリーヌ・ボネールとイザベル・ユペールは、揃って1995年ヴェネチア国際映画祭の主演女優賞に輝き、さらにユペールは同年度のセザール賞女優賞も獲得した。 (参照:goo映画より)

★追記です。
ユーニス・パーチマン(ソフィー)は、読み書きが出来ない。故に大惨事を引き起こしてしまうことになったのですが、家政婦としては完璧に仕事をこなすのです。なので、彼女が去ってしまった後の庭園は荒廃した姿となった。彼女にとって、あたかも肉体の一部が欠落しているかのような不自由さを想います。それ故に、その欠如した部分を補うために、その他のことを精一杯する。知られたくない最大の秘密が法廷でさらに知らされてしまった。更生して生きてゆく道も残されていたのに、彼女はがんとして拒んだ。それほどまでに、彼女にとって文盲であるということは知られたくはない秘密であったこと、そうした一人の人間の幼き日から今日までの人生を想像してみると、ディケンズの描写のように、"きっと奇妙なことに違いない。ジョーのような状態で生きているのは!"と想うのです。
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by claranomori | 2011-12-18 22:34 | 文学と映画★文芸・史劇