マーヴィン・ルロイ監督の1956年映画『悪い種子(たね)』(原題は「THE BAD SEED」)。8歳の少女ローダ役のパティ・マコーマックの恐るべき演技力(生意気さ)に天晴れ!ブロンドに三つ網におリボン、可愛らしいワンピース姿とタップ靴、テイーパーティーごっこをするときなどは実に子供らしく愛らしい。しかし、非情なまでに良心に欠け、善悪の区別がなく、人の死や悲しみに微動たりともしない落ち着きぶりが恐ろしい。この”悪い種子”というのは遺伝のことで、この作品では間隔遺伝であるとされている。ナンシー・ケリー演じる母親は美しく上流階級のお方で優雅で心もお優しい。実は、彼女の母親(少女ローダの祖母)は殺人鬼で我が子も殺そうとしていたところ、当時の事件担当者の養女として育てられたのだった。彼女が2歳の時のことながら、幼い記憶が幾度も悪夢に現れるのだった。夢だと想っていたことが父を問いただし真実が分かる。ローダは書き物コンテストで優勝できずに2位だった。その優勝者の男の子は素敵なペンダントを貰う。それが欲しくて仕方がない。奪おうとして抵抗する少年を海で溺死させてしまう。その他にも近所に住むご夫人の置物を死後頂けると約束していたけれど、我慢できずにわざと階段で滑って事故死させてしまう。この少女の性悪なものを感じ取っている雇い人のリロイという男性がローダをからかったりする。そんな彼も納屋で焼け死ぬ...そんな時も常に心の動揺など無く、ピアノを弾いたり遊びに出かけたりするのだ。ああ、恐ろしい!
原作は共に、ウィリアム・マーチによるものが基になっているけれど未読。『悪い種子(たね)』の方のローダは8歳。そして、レイチェルの方は9歳で此方では父が亡くなっているという設定。大まかなお話の流れはどちらも同じだけれど、少女の印象が大きく違うので良い。個人的にはレイチェル役のキャリー・ウェルズの方が好きなのだけれど、この作品でしか知らない。ローダ役のパティ・マコーマックは演技力のある子役時代から今も女優業を続けておられる。脇役の大人たちも其々個性的。これはサイコスリラーとしてとても秀作だと想う。一見天使のような少女の邪悪な魂...それを遺伝という描き方をしている点も興味深いように想う。
このパティ・マコーマックは見るからに気が強そうでしっかりした少女。なので、リメイクである『死の天使レイチェル』(1985年)での少女レイチェル(名前はローダからレイチェルに変っている)を演じるキャリー・ウェルズの方がさらに怖さは倍増な私。見た目があまりにも愛らしい少女で、彼女は涙も流す。そんな表面とは裏腹に心の邪悪さがさらに恐怖に感じるのだと想う。こちらの母親役はブレア・ブラウン。どちらも母親が最も悲傷で罪は自分にあると責めるのだ、血のせいだと。でも、掛け替えのない我が子をこれ以上放っておくことも出来ず、人をこれ以上殺めてはならないのだと決断をする。二人共に死へと...しかし...。結末はこの二作品では異なる。
悪い種子(たね)/THE BAD SEED
1956年・アメリカ映画
監督:マーヴィン・ルロイ 原作:ウィリアム・マーチ 脚本:ジョン・リー・メイヒン 出演:パティ・マコーマック、ナンシー・ケリー、ヘンリー・ジョーンズ、アイリーン・ヘッカート、イヴリン・ヴァーデン、ウィリアム・ホッパー
死の天使レイチェル/THE BAD SEED
1985年・アメリカ映画
監督:ポール・ウェンドコス 原作:ウィリアム・マーチ 脚本:ジョージ・エクスタイン 出演:キャリー・ウェルズ、ブレア・ブラウン、デヴィッド・キャラダイン、リン・レッドグレイヴ、リチャード・カイリー