『世紀病(MAL DU SIECLE)』★シャトーブリアンの『ルネ』(1802年)を原型とする自己と社会の鬩ぎ合い
2010年 11月 10日
『世紀病(MAL DU SIECLE)』なる現象を生んだ19世紀のフランス。ロマン主義時代の青年たちの心を動かした、絶望、孤独、不安、メランコリー、倦怠、厭世、不信、懐疑、無為、焦燥といった総じて憂愁なるものに裏打ちされた熱狂は、この時代の文学に描き出された精神状態、遠くはルソー、ゲーテの『若きヴェルテルの悩み』に源を発し、直接的にはシャトーブリアンの『ルネ』が原型とされる。
1. 欲望の焦燥に燃えるシャトーブリアンの世代
2. 熱情に悩む魂による現実の苦い発見を示すサント=ブーヴ、アルフレッド・ド・ミュッセの世代
3. 一層内的で醒めた、ノスタルジーと愛惜に浸されたテオフィル・ゴーチエ、ギュスターヴ・フローベールの世代
階級や世代からの視点では、元々大革命によって没落した貴族たちの疎外感から発し、やがてブルジョワジー自身の内部に於いて、大革命の理念と金銭本位の現実のズレに基づく欲求不満、さらに信仰不在とナポレオンの栄光に対するノスタルジーによって増幅されたもので、概略的には、確立を遂げようとするブルジョワ社会の抑圧がこの病の原因といえるそうだ。
そして、シャトーブリアンですが、長きに渡る生涯に於いて、常に自己を現実に、歴史に重ね合わせ、自己(のみとも)を語り続けた。シャトーブリアンはナポレオンより一歳年長の同世代であり、ナポレオン批判の時期も経て晩年はやはりナポレオン讃美であったように、シャトーブリアンは政治の世界へ身を投じた時期も、文学と政治の差異など毛頭ないように感じる。そして、ナポレオンの意志の強さ、並外れた熱情、そのエネルギーを讃美していた。ロマン主義の女性原理の視点(と形容される)の方が個人的にはしっくりするのですが、ヒロイズム、強いては男性原理の視点(と形容される)も蔑ろにしては愉しくないとバランスを自分なりにとりながら読んだり鑑賞したりするようにしています。ですが、どうしても『ルネ』に見られるように、大革命後のブルジョワ社会に居場所を見い出せずに居た若きシャトーブリアンの孤独と苦悩の姿が好きなのである!
「利害のモラル」に立脚した時代を倣岸に侮辱し、自らを流謫者と見なし、自己と歴史(社会)を鬩ぎ合わせ、自己に正当性を与えることで解放された自我とブルジョワ社会の対立を深刻に表現するフランス・ロマン主義の父となったのである。
(参照:『フランス文学史』『フランスの文学』他)
※上の絵はフェリックス・フィリポトー(Felix Philippoteaux)の1861年の画をイメージ的に掲載させて頂きました。また、文学史家のルネ・ジャザンスキーについては知らないので今後の課題です。