『アンデルセン 絵のない絵本』 美しく貧しい少女♪ 訳:山室静 画:岩崎ちひろ(いわさきちひろ)
2009年 03月 02日
むすめは、塚のそばで休んで、荷物をそこにおくと、青白い美しい顔を森の方へ向けて、しずかに耳をすましました。それから空をあおぎ、海の方をながめたときは、目はきらきらと輝きました。それからむすめは手をあわせましたが、それは「主のいのり」をとなえたのだと思います。むすめは、じぶんの中をこのときつらぬいて流れた気持ちがなんであるか、よくわかりませんでした。でも、わたしは知っていますよ―これから何年かのちにも、この瞬間と周囲の自然とは、繰り返し繰り返し、彼女の思い出の中に、画家が特定の絵具で紙の上にかいた絵よりもずっと美しく、また真実に、浮かんでくるだろうということを。わたしはわたしの光で、朝の光がむすめのひたいに接吻するときまで、どこまでもむすめのあとをつけていったのですよ。
★デンマークの田舎町の貧しい靴直しの子どもとして生まれ、しかも早くに父を失い、小学校もろくろくやらず都コペンハーゲンに出て、苦労を味わい耐えぬき、世界的作家となったハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805年~1875年)の生涯。あらゆる苦難の中にも、生来の無邪気な心で、神を信じ、人の善意を信じて、どこまでも希望を失わず、努力を続けたのであろう愛すべき作家のおひとり。お話の中で垣間見られるアンデルセンの分身のような少年少女たち。この『絵のない絵本』は童話というだけではなく、散文詩集のような作品。屋根裏に住む貧しい画家に、お月さまが夜々訪れてきて、自分の見たことを語る。そして画家がそれを書き留める。これはアンデルセンの貧しい学生時代の体験からのものだという。私もとてもお月さまが好き。あの優しい月光にこれまでどのくらい心慰められたことだろう...見えたり見えなかったりするけれど、いつも夜空を見上げる♪