美しいお人形のマーチペインを少女エミリーはすっかり気に入ってしまう。シャーロットの抗議も受け付けずに、プランタジネット一家を屋根裏に追いやり、一等良い寝室をマーチペインのものにしてしまう。驕り高ぶったマーチペインはプランタジネット一家に色んな嫌がらせをし不運が続く。姉妹が人形の家のランプの火を消し忘れたために、セルロイド製のバーディは燃えつきて姿を消してしまった...。この事件の折も高慢ちきなマーチペインの心は醜く薄ら笑いさえ浮かべていた。エミリーとシャーロット姉妹はこのマーチペインを疎ましく思い人形博物館へ寄付することに。そうして、プランタジネット一家には再び家と平和が戻ってきたのだけれど、バーディはもう戻っては来ないのだった。
お人形たちはモノかもしれない。でも、お人形を愛する者たちには生命のあるモノである。作り手が愛を込めて作った様々なお人形たちは作り手から離れ、それぞれの持ち主の処へやって来る。その持ち主の心によってモノであるお人形は生命(新たなる)を持つことになるように思う。私も子供の頃はご贔屓の綺麗なお人形には特別の計らいをしていた。今は美醜や値段などではなくすべてをそれぞれに大事にしているつもり。でも、一人だけ私の心から決して消え去ることのないドイツ人形が居る。彼女は美少女というわけでもなくちょっぴりふとっちょな子。何故だか、幾度も私を救ってくれたのはその子。私は毎年歳を重ねてゆくのに一向に成長しないで小さな少女のまま。愛おしい私の友人たちでもある。この『人形の家』は人形世界と人間社会のあわいを紡ぐ大好きなファンタジー。人形たちの運命は人間に左右されてしまう。けれど、彼女たちの心を覗いてみることもできる。人間社会の悲喜交々と共に生きる宿命を背負ってもいるのだと。