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あまりにも私的な少女幻想、あるいは束の間の光の雫。少女少年・映画・音楽・文学・絵画・神話・妖精たちとの美しきロマンの旅路♪


by chouchou
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『女生徒』 著:太宰治 挿絵:北野万平

太宰治の昭和14年(1939年)秋頃の小説『女生徒』の中の少女。彼女の年齢ははっきり書かれていないけれど、15歳から17歳頃のように感じる。時代が違うので今の少女たちの方が早熟なお方が多いだろうけれど、昔も今も変わらないものは変わらない。この小説はある少女の日記を基にされているという。けれど、太宰の創作。ひとりの女生徒の起床から就寝までの一日が描かれている。私は所々自分と似ている箇所を見つけたり、こんな気持ちは嫌いだけれど少し分かる...などととても愉快。外国かぶれした子供だったので、日本文学をまだまだ知らない。太宰は中学生の時に課題図書とされ知った。太宰の虚無感や厭世観のようなものが私は好きになった。まだ小さな童女の頃は少し頭だけませていて、古いフランス映画を観ては綺麗な女優さまに憧れた。黒いヒール姿にタイトなスーツ姿は上品で”大きくなったらば・・・”と夢を馳せた。しかし、思春期(人より長いかもしれない)の私はそんな夢など行方知らず。大人や社会に対する言葉にできない抵抗があり”時よ止まれ!”と真剣に願った。友人たちの身長や体型に変化が大きく表れだす頃。私は”このままでいい”と強く願った。お陰で貧弱なまま至るが後悔はない。前髪の1cmの差が死ぬほど大事なことのようだった。制服の襟やスカートの皺は許せなかった。鞄や靴が汚れるのが嫌だった。男子に脚を見られたりするのが嫌で校則ぎりぎりまでの長さのスカートを穿いていた。その頃の不良っぽい女子生徒は短いスカートだったので運良く思いっきりロングにして穿いていた。少し前までは叱られたことだったけれど時代の流れが幸いした。今の私も少しはまだ残っているかもしれないけれど、あの頃は神経が張り詰めていた。母に尋ねても大したことじゃないと言われる事柄たちが私には大問題だったのだ。

この小説の中の少女の姿に感情移入できるのは、この頃ならではの潔癖性のようなものかもしれない。それも人それぞれだけれど。また、この少女は近眼で眼鏡をかけている。その顔が好きではない様子もとてもよく分かる。似た感情を持っていたのでとても好きな箇所がある。

朝は、いつでも自信がない。寝巻きのままで鏡台のまえにすわる。めがねをかけないで、鏡をのぞくと、顔が、少しぼやけて、しっとり見える。自分の顔の中で一ばんめがねがいやなのだけれど、ほかの人には、わからないめがねのよさも、ある。めがねをとって、遠くを見るのが好きだ。全体がかすんで、夢のように、のぞき絵みたいに、すばらしい。きたないものなんて、何も見えない。大きいものだけ、鮮明な、強い色、光だけが目にはいってくる。めがねをとって人を見るのも好き。相手の顔が、皆、優しく、きれいに、笑って見える。それに、めがねをはずしているときは、決して人とけんかをしようなんて思わないし、悪口も言いたくない。ただ、黙って、ポカンとしているだけ。そうして、そんなときの私は、人にもおひとよしに見えるだろうと思えば、なおのこと。私は、ポカンと安心して、甘えたくなって、心も、たいへんやさしくなるのだ。

だけど、やっぱりめがねは、いや。めがねをかけたら顔という感じがなくなってしまう。顔から生まれる、色々な情緒、ロマンチック、美しさ、激しさ、弱さ、あどけなさ、哀愁、そんなもの、めがねがみんなさえぎってしまう。それに、目でお話をするということも、おかしなくらいできない。


それから幾年も流れ私の近眼はさらに進んだので、似合わない眼鏡だけれど無くては何も見えない。眼鏡の似合うお方を見るのは好き。そして、今でも眼鏡をはずしてポカンとしているのが好き。下の挿絵はこの少女が二匹の犬と一緒のもの、ジャピイとカアという名。楽しく遊んでいるのがジャピイ。ショボンと寂しそうなのがカア。ジャピイは真っ白で綺麗だから可愛がる。カアは体が不自由で汚いから、わざと意地悪くしてやる、というような箇所がある。こういう少女は嫌いだけれど、そんな意地悪さを知っている。私も綺麗な美しいものばかりを見たりするので、高校生の時に指摘された。でも、意地悪くしたりはしなかったつもり。汚いと想うものを見ようとしなかったその頃の私、つけが廻って今になり目を見開いて見つめる試練を得ている。ああ、まだまだ青二才。
『女生徒』 著:太宰治 挿絵:北野万平_b0106921_21505032.jpg

by claranomori | 2008-11-06 08:01 | 本の中の少女たち・少年たち