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あまりにも私的な少女幻想、あるいは束の間の光の雫。少女少年・映画・音楽・文学・絵画・神話・妖精たちとの美しきロマンの旅路♪


by chouchou
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中原中也 『サーカス』 (『山羊の歌』より) ~『中原中也詩集』 神保光太郎編~

『山羊の歌』
 サーカス

幾時代かがありまして
   茶色い戦争ありました

幾時代かがありまして
   冬は疾風吹きました

幾時代かがありまして
   今夜此処での一と殷盛り     
      今夜此処での一と殷盛り

サーカス小屋は高い梁
   そこに一つのブランコだ
見えるともないブランコだ

頭倒さに手を垂れて   
   汚れ木綿の屋蓋のもと
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

それの近くの白い灯が   
   安値いリボンと息を吐き

観客様はみな鰯  
   咽喉が鳴ります牡蠣殻と
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

       屋外は真ッ闇 闇の闇
       夜は刧々と更けまする
       落下傘奴のノスタルヂアと
       ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん

- 『中原中也詩集』 神保光太郎編より-


中原中也 『サーカス』 (『山羊の歌』より) ~『中原中也詩集』 神保光太郎編~_b0106921_1553689.jpg

★先述の『白夜の時を越えて』から巡る私の絡まる頭と心の断片たちは、きっと私にとって大切なものなのだろうと想う。明治40年(1907年)4月29日に山口県で生まれ、その後、転々と移り住み、昭和12年(1937年)10月22日、小町の鎌倉養生院にて永眠。享年30歳。この『山羊の歌』は昭和6年から7年(1930年~1931年)にかけて制作されたもの。こうしたブログでは横書きとなるので、この行間から感じられるもの、紙の手触り、仮名使いの妙...本を手に取る方が遥かに好きだ。私はこの詩が好きで他の作品と同様に奇妙な寂しさとあたたかさを感じる。中原中也という詩人は好きなのだけど、時に涙に溢れ心が穏やかどころかこの純粋さ、正直さ故、生き苦しい日々だったのだろうと想うので心臓に悪い。世の中とはそういうものだと言われても...。私の好きな詩篇はシャンソンである。日本語であろうとフランス語であろうと。中原中也はヴェルレーヌやランボーに傾倒し翻訳作業も多くされている。時に語るように歌う...”ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん”...なんて!優しい音律だろう。生前その直後よりも、今なお私たちの心に届く歌を歌える数少ないお方だったのではないだろうかと想う。”咽喉”は”のんど”と読むのだけれど、このような響きがたまらない。”茶色い戦争”という言葉が重く感じられるのは私だけではないと想う。
by claranomori | 2008-08-23 02:10 | 愛の花束・日本の抒情・文学