『少女(おとめ)ララよ - 伝奇物語 -』 著:尾崎翠(『不思議の国のララ』より)
2008年 08月 15日
詩人アントニオと盲目の美しい幼い少女ララが出逢う南伊太利のペスツムという貧しい村。そこには多くの乞食の子供たちがいる。その中にすぐれて美しい女の子がいる。その神々しい女神のような気高さを持つ少女は、子供達の群から少し離れて立っている。他の子供と同じようにみすぼらしい身なりで裸足でいる。そして、黒髪を美しく束ね、房々とした前髪には一束の菫の花をさしている。アントニオが身近で彼女を見ると胸が閉ざされてしまった。この美しい少女の二つの瞳は盲いていた。アントニオは即興詩をうたうけれど、心の中はこの盲いた少女ララのことでいっぱいだった。
山の美しさ、水の美しさ、物寂びた祠の美しさ、紫の菫の花の美しさ、誰もが受けるこの美しいたまものを、如何してその娘だけは受けることが出来ないのだろうと、その哀憐を涙を流してうたうのだった。哀れな少女ララよ、さようなら - アントニオは旅を経てベニスの夜会にてあの美しい少女ララの面影を残す少女マリアに出逢う。マリアはその町の市長の姪であるけれど、誰も彼女の幼い頃の身の上をしるものはいなかった。ただ、4年前に遠い国から叔母に連れられ戻ってきたということだけしか。美しい月夜にマリアは黒っぽい着物を着て、半身に青白い月光を浴びるマリアの神々しい姿は6年前のララそのものだった。アントニオはいきなり琴を取ってうたいはじめる。涙を浮かべてマリアは静かに物語る。神様に光明をお願いする為に貧しい村に預けられ、神の囁きを聞き、その洞窟で薬草を摘んで下さった。そして、2年間、毎日その薬草の花を煮て盲した目を洗い続けた。そして、神様は光明を下さったのだと。アントニオの心は旅に憧れ、菫咲くペスツムの丘へ、カプリの島の碧い天地へ。貧しく幼かったララの跡を訪ねる為に、水の都ベニスを後にする。 - さようならマリアさようならベニス。-
予定よりも詳しく書き綴ってしまったような気もするけれど、少女ララとアントニオを想いその美しい心の通いに涙が溢れる。尾崎翠という文人の描いた物語ながら、私はその賤しい村の美しい様子を想い描き、気高く心の清らかな美しい少女ララを愛おしく胸に刻み続けている...☆