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あまりにも私的な少女幻想、あるいは束の間の光の雫。少女少年・映画・音楽・文学・絵画・神話・妖精たちとの美しきロマンの旅路♪


by chouchou
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『万葉姉妹』 川端康成

『万葉姉妹』 川端康成_b0106921_7543192.jpg
川端康成の『万葉姉妹』は昭和26年に『ひまわり』で連載されていた少女小説。私は集英社のコバルト・シリーズの文庫で知ったもの。姉の安見子(典子)と夏実の万葉集から得られた名の二つ違いの姉妹の物語。東京の池辺家の大きなお屋敷の書生を父に持つ姉妹。ところが、その姉妹の実の父は、妹の夏実が生まれて間もなく死んでしまう。姉の安見子は子供のいないそのお屋敷の養女として育てられ、妹の夏実は母のふるさとの福島の田舎で育てられる。やがて、母が死に、祖母も亡くなり孤児となる。祖母の遺言により15年目に池辺家に預けられ、姉妹は一緒に生活を始めるけれど、ふたりはお互いに姉妹であることは知らない。姉の典子はお金持ちで何不自由なく育ち、気位の高い少女ながら病弱。妹の夏実は、素直で心の美しい天使のような少女。初めのうちは典子は夏実を嫌い冷たい態度をとるけれど、胸を患い気弱になってゆく中、ずっと夏実は典子の身を案じ支えてゆく。そんな二人の間には次第に通い合うものが生まれる。そして、”もしかすると...”と互いに姉妹であることを感じ始めるのだ。結局、典子は死に至るのだけれど、それまでの過程の描写は感動的!

「あなたとわたしはおなじよ。夏実さん、あなたとわたしはおなじよ・・・」


死の間際に典子が夏実を見つめてこのように語る。”あなたとわたしはおなじよ”という言葉に私はとても涙した。再読し今も綴りながら泣いている。全く違う境遇で育ち、実の姉妹であることも知らない二人の血の絆というのだろうか。健気な夏実の汚れない美しい心、思いやる心、そして病に伏す典子の悲しみ。”わたしたちは姉妹よ”とは言わずに”おなじよ”と言うあたりが繊細で美しいと想う。また、川端康成ご自身の境遇をこの姉妹に託して書かれたものだと知り、さらに感慨深い静かな想いが私の心に沁み入るかのよう。このようなお話が好きみたい☆
『万葉姉妹』 川端康成_b0106921_754474.jpg

映画や音楽と同様に文学も異国のものを好んで読み始めたので、川端文学の素晴らしさに惹かれ始めたのはかなり遅い。今住んでいる町は大阪と言えどものどかで静かな町。京都に近い北摂。10年間心斎橋(南堀江)に住んでいたのだけれど、生まれた兵庫の町の田舎でもなく大都会でもない、穏やかな田畑や森、猪名川の流れる自然が蘇るような平穏な町に今は戻ってきた。体調がかなり悪くなっていた数年前の私は次第に少しずつ回復している。売り上げは大きく減ったけれど、あのままではお仕事を続けるのも不可能になっていたかもしれない...でも、そうしたバランスを崩したことは何らかの私の糧になっているのだろうと想う。精神力の強いお方に憧れる。特に幾つもの試練を乗り越えてきたようなお方に。それらのお方はご自分の辛い体験や境遇から人への慈しみや哀しみを理解する寛容さをも持ち合わせているものだから。私はすぐに泣くししょ気てしまうけれど何故かどうにか生きることに絶望を感じたことはない。歳のせいか、試練がやってくると”まただ”と想いその先の光を希望に見るようになってきたようにも感じる。能天気だとも言えるのかも。川端康成氏に因んだ”川端通り”を行くと図書館がある。その辺りの町並みはとても綺麗でお気に入り♪
by claranomori | 2008-04-22 08:12 | 本の中の少女たち・少年たち