このディエゴ・ベラスケスの1656年の『ラス・メニーナス(侍女たち)』の絵を見たのは子供の頃で、多分百科事典についていた「世界の名画」か何かだったのだと想う。なにか奇妙な印象を受けたものだ。このスペインのフェリーペ国王時代の宮廷画家の残した名画は未だに解き明かされていない謎があるのだという。それは、スペインの児童文学作家のエリアセル・カンシーノの『ベラスケスの十字の謎』の中で書かれていて知ったこと。気になる人物がこの絵には多い。先ずはマルガリータ王女(マルガリータ・テレサ)。ベラスケスはいくつかこの幼い王女の肖像画を残している。この頃はまだ6~7歳頃のもの。王女の周りの侍女たちの中でも右から二人目の強面の女性は強烈な印象を残す。マリバルボラ(バルバラ・アスキン)という女性でドイツからスペイン宮廷に連れてこられ、王妃から格別に目をかけられ、自身の召使を持つことを許される程の好待遇を受けていたという。また、最も右に描かれている愛らしい小さな少年はニコラス・ペルトゥサトで、マリバルボラにもたいそう可愛がられていた。イタリアのミラノ生まれながら、背が伸びない体ゆえに1650年にスペイン宮廷に連れてこられた。彼は未来を透視する能力があり、1675年に執事となり、敬称ドンをつけドン・ニコラスと呼ばれるようになったそうだ。この絵の中の皆を看取り亡くなったという。この時代、背が伸びないという(小人)ことから、こうして幼い頃に両親から捨てられ異国へ連れてゆかれていた人たちが多くいたのだ。ベラスケスは他にも小人の肖像も描いている。なんとも不遇なお話だと想うけれどこうした待遇を受けることのできた人たちもいて良かった。彼らの能力を理解する国王や王妃、王女たちの心によって違うだろうけれど。
この絵もベラスケスによる1953年のマルガリータ王女の肖像画(2歳頃)。この王女は僅か21歳の若さでお亡くなりになっている。幼少時から婚約していた11歳年上のハプスブルク家のレオポルト一世と結婚(1666年)。しかし、血族結婚が繰り返されていたゆえに生まれた子供たち(4人のうち3人)は生後間もなく死に至っている。そしてご自身の生涯(1651年8月12日~1673年3月12日)も21年という短いものだった。僅か14歳で嫁ぐというようなこの時代の王女たちや、国を超えて血族関係の結婚も繰り返されたことなど、哀しい宿命の王女たちを想う...。
★この絵にはベラスケス自身もおられる。胸に騎士団の十字の紋章をつけた画家として。しかし、この「永遠の時」を封じ込めたという絵を完成させたのは1656年。ベラスケスがサンティアゴ騎士団になる夢を果たしたのはその三年後のことだそうだ。よって、この絵の胸の十字は誰かが書き加えたものなのではと謎とされているそうだ。ベラスケスは常々「絵画は光への歩みである」と語っていたという。ああ不思議☆