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あまりにも私的な少女幻想、あるいは束の間の光の雫。少女少年・映画・音楽・文学・絵画・神話・妖精たちとの美しきロマンの旅路♪


by chouchou
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『墓にツバをかけろ』 監督:ミシェル・ガスト 原作・脚本:ボリス・ヴィアン 『墓に唾をかけろ』 1959年

『墓にツバをかけろ』 監督:ミシェル・ガスト 原作・脚本:ボリス・ヴィアン 『墓に唾をかけろ』 1959年_b0106921_11552712.jpg
★ボリス・ヴィアン(Boris Vian:1920年3月10日~1959年6月23日)がヴァーノン・サリバン名義で出版した小説『墓に唾をかけろ』(1946年)をミシェル・ガスト監督が1969年に映画化。ボリス・ヴィアンはミシェル・ガストと映画を製作することが夢であったと語っていたけれど、この映画『墓にツバをかけろ』の試写の段階で惜しくも39歳という若さで死去された。この小説及び映画の舞台はアメリカの南部。まだ白人による黒人差別の社会に於いて、恋愛など許されてはいなかった頃。そんな時代に本国アメリカではなくフランスで作られた映画で、主役のジョー・グラント(小説の中ではリー・アンダーソン)役はクリスチャン・マルカンが演じている。フランスの役者たちがフランス語で語るアメリカ社会。ジョー・グラントは見た目は白人であるが弟の肌は黒い。この点はとても重要である。弟ジョニーがある白人女性と恋に落ちるが、白人たちによるリンチにより絞首刑されてしまう。兄ジョーは弟の仇打ちを誓い、その出自を隠して白人社会へ紛れ込む。友人の叔父シャドレイを頼ってメンフィスからトレントへ。シャドレイは書店を営んでおりジョーはそこで働く。町の若者たちと町の富豪の息子スタンと、令嬢の姉妹であるエリザベスとシルヴィアとの関係などを通し青春を描きながらも、白人による黒人蔑視の根深さが悲劇の結末へと向かう中で強烈に印象つける。見た目は白人であるジョーの爪を見れば黒人であることが分かる。お美しいアントネラ・ルアルディ演じるエリザベスはスタンとの結婚より黒人と分かっていてもジョーを選ぶのだけれど...。

劇中に朝鮮戦争という言葉があり、これまで幾つものフランス映画で青春と戦争という背景が気になっていた。19世紀はイギリスが世界を引率していたと云えるのだろう。そして、20世紀はアメリカという新しい大きな波が世界を引率する。それはいつも戦争を伴っていたのではないだろうか。何か行き場のない若者たちはフランスでも日本でも世界中に。フランスの五月革命や日本の安保闘争など、時期を同じくして若者たちが反体制を叫んだのでは。私は政治に無頓着で生きてきたけれど、革命なり戦争なり、自由や国家のために闘い、時に死さえ懼れずという若者たちの姿に子供の頃から何かしらシンパシーのようなものを抱いていた。そのような資質が何処から来るのかは分からないけれど、ある種のヒロイックなものを今も感じる。一人で白人社会に立ち向うジョーと、白人の令嬢エリザベスは死に至ることでしか結ばれることは許されなかったのだろうが、実に誇り高き姿である。

ボリス・ヴィアン及びミシェル・ガストによるこの『墓にツバをかけろ』は、青春映画としてのフィルム・ノワールであり、またヌーヴェル・ヴァーグ映画とも云えるように想う。音楽はアラン・ゴラゲールで渋いジャズ・ナンバーがモノクロームな映像を彩るかのように響き渡る。

『墓にツバをかけろ』 監督:ミシェル・ガスト 原作・脚本:ボリス・ヴィアン 『墓に唾をかけろ』 1959年_b0106921_1155409.jpg

墓にツバをかけろ/J'IRAI CRACHER SUR VOS TOMBES
1959年・フランス映画
監督:ミシェル・ガスト
原作・脚本:ボリス・ヴィアン 原作 『墓に唾をかけろ』
撮影:マルク・フォサール 音楽:アラン・ゴラゲール
出演:クリスチャン・マルカン、アントネッラ・ルアルディ、フェルナン・ルドー、ルナート・ウェール、ポール・ゲール、マリナ・ペトローバ、カトリーヌ・フォントネー

by claranomori | 2012-03-02 14:36 | 文学と映画★文芸・史劇