『安寿と厨子王』 「山椒大夫」 作:森鴎外 (大正4年) ★ 幼い姉弟の強く結ばれた愛情に涙した日本童話
2012年 02月 17日
この中世時代にまで遡る日本の伝承、説教節『さんせう太夫』を基に、森鴎外が大正4年(1915年)に小説化したのが『山椒大夫』で、次第に童話や児童文学としての読み物になり、1961年にはアニメーション映画としての『安寿と厨子王丸』も公開されたそうです。その映画は未見なのですが、私が知ったのは日本童話としての『安寿と厨子王』が最初でした。
安寿は母親と乳母に連れられ筑紫の父を訪ねる旅の途中、越後の海辺で人買いにだまされて弟の厨子王と共に由良の山椒大夫に売られ、奴婢として潮汲みをさせられる。母は佐渡に売られ、乳母は海に身を投げた。山椒大夫の家での過酷な日々。ある日、安寿は弟と一緒に芝刈りの仕事をしたいと伝えるが、その代わりに男のように髪を切れと命じられる。安寿の美しい髪は切られるが、安寿の顔は喜びに満ちていた。あくる朝、安寿は心配する弟の質問にも答えず山の頂を目指す。そこで、ようやく弟を逃がす決意を伝える。厨子王は自分が逃げた後に姉の身に振りかかる仕打ちを想い躊躇する。けれど、安寿は厨子王に大事にしていた守本尊を与え励まし、取るべき道を細かに論して逃がす。そして、安寿は沼に身を投げ命を絶つ。安寿15歳、厨子王12歳であった。
安寿と厨子王の歳は諸説あるようです。けれど、美しい黒髪を切り男のようになり自らの命を犠牲にして弟を守ろうとする少女の心、その安寿の姿は気丈で美しい。一身を投げ打つ姉の言葉が、弟の耳に神さま、仏さまの言葉に聞こえた。姉を想う優しい弟の幼き心にも胸を打たれる。本来、兄弟姉妹とはこういう姿であるのだろう。逃れた厨子王は母を探し佐渡へ渡る。その行方は容易に知れない。想い悩みながら畑中を歩いていると、ふと目にした百姓屋から女性の声が聞こえる。
その歌のようにつぶやく声は、視力を失い髪は乱れぼろを着、瞽女となった母の声であった。そして、母親の見えない目も安寿の大事にしていた守本尊のお陰で見えるようになり、二人はしっかり抱き合う。姉の犠牲と神仏を敬う気持ち。優しさとは気高き心である。細部をしっかり覚えているのではないけれど幾十年経て、こうして文字を打ちながら浮かぶ安寿と厨子王の姿。この御本を与えてくださった天国の両親にも感謝しています。