三島由紀夫 「わが愛する女性像」 昭和37年(1962年) ★ ギュスターヴ・モロー 『雅歌』 (1853年)
2012年 02月 16日
★三島由紀夫の「ギュスターヴ・モロオの「雅歌」 ― わが愛する女性像」と題されたエッセイがあります。昭和37年(1962年)4月23日の婦人公論増刊に寄せられたものです。三島由紀夫の小説も然りながら、エッセイの中にも興味深いものは多数あります。殊に私の好きなロマン主義(ロマン派)や象徴主義(象徴派)の絵画や文学に関するお言葉は、耽読することが多いようです。ギュスターヴ・モロー(Gustave Moreau:1826年4月6日~1898年4月18日)は、フランス、パリ生まれの象徴主義の画家。聖書やギリシャ神話を題材に幻想の世界を描き、19世紀末のフランスのみならず、象徴主義の先駆者として多大なる影響を与えた神秘の画家であります。三島由紀夫が取り上げているギュスターヴ・モローの『雅歌』(The Song of Songs)は1853年の作品です。マスネエの音楽とは19世紀から20世紀初頭のフランスの作曲家のジュール・マスネのことで、ギド・レニはグイド・レーニのことでかのゲーテも「神のごとき天才」と讃えた17世紀イタリアのバロック画家です。
三島由紀夫
浪漫派絵画で、男性的な雄渾なドラクロアと、女性的な典雅なモロオとは、共に私の敬愛する画家だが、テオフィル・ゴーティエの小説の女主人公や、フロベールの「サランボオ」を思わせる絵すがたは、モロオのものだ。この絵でも、近東風の物憂い官能性、典雅な淫逸、肉体の抒情と謂ったもののあふれるばかりの女人像は、そのきらびやかな宝石のきらめきと相俟って、しばし観る者を夢幻の堺へ誘う。マスネエの音楽もひびいて来るようで、いわば最も贅沢な「二流芸術」の見本だ。大体、二流のほうが官能的魅力にすぐれていることは、ルネッサンス画家でもギド・レニを見ればわかることで、私の好きなものも正直その点である。
昭和37年4月23日の婦人公論増刊
引用 : 「三島由紀夫の美学講座」 編:谷川渥 ちくま文庫