『雪』 詩:ウォルター・デ・ラ・メア 挿絵:ドロシー・P・ラスロップ 訳:荒俣宏 ★ 『妖精詩集』 より
2012年 01月 21日
風も吹かない
日も照らない―
だのに 白雪が
そっと舞いおちる―
小枝も大枝も
広葉も棘も
みんな凍って
ひっそり さみしい。
空に舞い、舞い、
敷居に石に、
そして屋根にも―どこにでも
雪は 粉の水晶片を積みあげて
どんな木でさえ 山にする。
一日の終りに
一本の冬の日差しが
淡く、かすかに
西空から消えゆくまで。
そして おぼろな月の出るあたり
火の羽根に覆われて、
一羽のこまどりが
さみしい調べを さえずりつくす。
詩:ウォルター・デ・ラ・メア 挿絵:ドロシー・P・ラスロップ 訳:荒俣宏
『妖精詩集』 夢の世界 より
★この『雪』はウォルター・デ・ラ・メアの1922年刊行の『妖精詩集』の中に収められている好きな詩の一つです。挿絵はドロシー・P・ラスロップで、各詩に寄りそうように一緒にあります。ニュースで東北及び首都圏の雪空、雪の中を歩く人々の姿を拝見いたしました。大阪は昨日から今日も雨模様。同じ日本に生きる人々なので、やはり気になります。私が雪掻きのお手伝いが出来るのでもないのですが...。ウォルター・デ・ラ・メア(Walter De La Mare:1873年4月25日~1956年6月22日)はイギリスのケント州チャールトン生まれの作家。幻想文学、詩集、児童文学と多岐に渡る独自の夢幻的世界を美しく綴る作家です。
ウォルター・デ・ラ・メアは幼な心を謳いあげた"幼な心の詩人"と謳われるお方。この『妖精詩集』の訳者である荒俣宏氏のあとがきには、西條八十や佐藤春夫、三好達治もウォルター・デ・ラ・メアを愛したのだとあります。また、江戸川乱歩は、デ・ラ・メアの名言「うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと」を座右の銘にしていたのだそうです。
デ・ラ・メアの作風をひとことで述べれば、"夢の中に暮らす幼年期の感性"、ともあり、私はそうだからこそ、ウォルター・デ・ラ・メアの詩や物語が好きなのだと想えます。年々実年齢だけは増してゆく中で、どうしても幼き頃の風景たちが私の人生には不可欠のようなのです。夢の世界と現実の世界を往来できる作品に出合うと嬉しいです。
現実を見つめると重く悲劇的な気分に陥ります。殊に東日本大震災以降、否、おそらくあの終戦後(敗戦後と云うより)から日本の心は闇の中に沈むばかりだったのではないかと感じます。けれど、黙して耐えながら曙光を求め願い続けて来たのも日本人ではないだろうか、とも想います。雪の寒さの中ですが、どうか東北の皆様、頑張ってください☆