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あまりにも私的な少女幻想、あるいは束の間の光の雫。少女少年・映画・音楽・文学・絵画・神話・妖精たちとの美しきロマンの旅路♪


by chouchou
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『華麗なる屈折美学』 追憶の80年代・映画編 VOL.1 『ジプシーのとき』 『リキッド・スカイ』

華麗なる屈折美学
追憶の80年代・映画編


 文明と文化が拮抗し合う様相を窺う中で思考する魂。喩え、産業が発達し物質的に豊かになったとしても、歴史、伝統は脈々と継承されてもいる。家族の断裂と云われるけれど、都市と過疎の村ではやはり異なる風景があると想う。80年代、ニュー・ウェイヴと云えども。異国の文化を映画や音楽から感じ何かを得る。まったく異なるタイプの映画を前述の「音楽編」との関連で二つばかり。
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 一つは80年代のユーゴスラビア映画で想起するのは、エミール・クストリッツア監督作品である。カンヌ映画祭のパルム・ドールを『パパは、出張中!』と『アンダーグラウンド』で2度受賞のヨーロッパで絶大な評価を得ている監督。とりわけ『ジプシーのとき』(1988年)は不思議な映画で、幾度か観返しているお気に入り。“ジプシー”という言葉は差別用語だという。ならば“ロマ”と言い換えると良いのだろうか。動乱のユーゴスラビアの歴史は複雑で言語、宗教も多種存在する。この映画の舞台となる土地、生活する人々は流民する、漂泊の民人たち。エミール・クストリッツア監督と共同脚本家のゴルダン・ ミヒッチは、その土地で実際に生活し、映画に登場する出演者たちの大半は職業役者ではなくジプシーたちを起用。其処には彼等の歴史や文化があり、主人公の青年の夢やロマンス、また挫折を、悲哀とユーモアで叙情豊かに描いたファンタジックな秀作。花嫁衣装を着たまま子供を産み死に絶える美しい娘が空高く舞い上がるシーン、流れる音楽と一体化する美しさは言葉を超える。クストリッツア作品はどれも音楽も優れており、サントラ作品としても秀作が多い。本作での音楽担当は、ユーゴのロックバンド、「ホワイト・ボタン」で活動していたゴラン・グレゴヴィッチである。トラディショナルな楽曲をアレンジしたもの等、ジプシー音楽の魅力を伝えながらも斬新な音を奏で映像と共鳴する様は圧巻である。
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 もう一つは、ロシア(旧ソ連)出身のスラヴァ・ツッカーマン監督の1983年、アメリア映画で『リキッド・スカイ』という映画。主演のアン・カーライルは 男性と女性の二役を美麗に演じ脚本にも名を連ねている。世界一の大都市、ニューヨークを舞台にした異色カルトSF。主人公は女性版デヴィッド・ボウイ然たるエキセントリックな美しきアンドロジナス。大都市マンハッタンならではのスタイリッシュなアンダーカルチャーが描かれている。ペントハウスに宇宙船が出現し異星人がその住人の女性モデルに乗り移る。彼女と関係を持った男性たちは次々と精気を奪われ死に至る。サイバー・モンドなヴァンパイア・ロマンスはユニークである。映画の要である脚本は優れているとは個人的に思えないが、映像力、見せる力はあると想う。好き嫌いが分かれるのは当然のカルト映画ながら、 『リキッド・スカイ』に魅せられるのは、やはり女性と男性を演じるアン・カーライルの存在感であり、その一点に尽きるとさえ思う。私の幼少時からの謎でもあるが、古今東西の両性具有あるいは性別を超えた美の化身に惹きつけられる傾向は、歳月と共にかなり深刻な心の核となりつつある。音楽もコンラッド・シュニッツラー的、プログレ経由のニュー・ウェイヴ感覚を帯びた電子音楽で映像と絶妙に一体化し得た成功作であろう。
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 “無用でなければ、何も美しくはない。有用なものはすべて醜い。”と、オスカー・ワイルドが『ドリアン・グレイの肖像』の序文で引用していた テオフィル・ゴーティエの言葉が私に囁きかける。そうして、刻と云う時間の澱に微睡みながらロマンに心を馳せるのだろう。

ジプシーのとき/DOM ZA VESANJE
1988年・ユーゴスラビア映画
監督:エミール・クストリッツァ 
製作:ミルザ・バシッチ 製作総指揮:ミラン・マルティノヴィッチ
脚本:エミール・クストリッツァ、ゴルダン・ミヒッチ
撮影:ヴィルコ・フィラチ 
美術:ミリアン・クレカ・クリアコヴィッチ 音楽:ゴラン・ブレゴヴィッチ 
出演:ダボール・ドゥイモビッチ、ボラ・トドロビッチ

リキッド・スカイ/LIQUID SKY
1983年・アメリカ映画
監督・製作:スラヴァ・ツッカーマン 
製作総指揮:ロバート・フィールド
脚本:スラヴァ・ツッカーマン、アン・カーライル、ニーナ・V・ケローヴァ
撮影:ユーリー・ネイマン 
音楽:スラヴァ・ツッカーマン、ブレンダ・I・ハッチンソン
出演:アン・カーライル、パーラ・E・シェパード、スーザン・ドーカス、オットー・フォン・ヴァーンヘル

by claranomori | 2011-12-24 15:31 | キネマの夢・シネマ万華鏡