大正文化の夕映え 『日本児童文庫』 文:澁澤龍彦
2011年 07月 27日
いわゆる大正リベラリズムの名で呼ばれる大正時代は、童話や童謡の空前の流行を見た時代である。それが一段落して、昭和の時代にはいるとともに、やがて講談社ジャーナリズムに支配された児童文学の大衆化の波が滔々と押し寄せてくる。昭和とともに発足したアルスの「日本児童文庫」は、いわばこの谷間に咲いた、大正時代の童話・童謡の黄金時代の最後の花、最後の総決算であろう。なつかしい大正文化の夕映えのようなものだと思えばよいかもしれない。
澁澤龍彦 『魔法のランプ』 推薦文六篇
大正文化の夕映え (『日本児童文庫』) より
※『日本児童文庫』は昭和3年4月5日から昭和5年11月11日までに全76巻発刊されたそうです。西暦だと1928年から1930年となります。大正の終わりが1926年なので、まだ大正ロマンの芳香を感じることができた時代だったのだと夢を馳せます。前述の山本有三氏が編纂した『日本少国民文庫』は昭和10年から12年の新潮社よりの刊行なので、その約7年程前です。その時代時代で変容するのは書物に限ったことではないけれど、やはりロマン香る時代の作品は心がほっこりするようです。