あまりにも私的な少女幻想、あるいは束の間の光の雫。少女少年・映画・音楽・文学・絵画・神話・妖精たちとの美しきロマンの旅路♪


by chouchou
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『岩波少年文庫発刊に際して』(1950年)吉野源三郎★いつまでも色褪せぬ普遍的名文!

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★吉野源三郎(1899年4月9日~1981年5月23日)というお方の名は岩波文庫の『君たちはどう生きるか』という作品で知り、とても深く感銘を受けた大好きな御本です。このお話の事も続けようと思いますが、今朝はその吉野源三郎氏の寄せた名文である、「岩波少年文庫発刊に際して」(1950年)を記しておこうと想います。3月11日以来のあの衝撃的映像と諸々・・・すっかりブログの更新もままならぬ体調不良に陥ってしまった。そんな折に懐かしいあの名文がおぼろげに蘇り、手許にある「岩波少年文庫」で確認したのでした。

岩波少年文庫発刊に際して 

一物も残さず焼きはらわれた街に、草が萌え出し、いためつけられた街路樹からも、若々しい枝が空に向かって伸びていった。戦後、いたるところに見た草木の、あのめざましい姿は、私たちに、いま何を大切にし、何に期待すべきかを教える。未曾有の崩壊を経て、まだ立ちなおらない今日の日本に、少年期を過ごしつつある人々こそ、私たちの社会にとって、正にあのみずみずしい草の葉であり、若々しい枝なのである。

この文庫は、日本のこの新しい萌芽に対する深い期待から生まれた。この萌芽に明るい陽光をさし入れ、豊かな水分を培うことが、この文庫の目的である。幸いに世界文学の宝庫には、少年たちへの温い愛情をモティーフとして生まれ、歳月を経てその価値を減ぜず、国境を越えて人に訴える、すぐれた作品が数多く収められ、また名だたる巨匠の作品で、少年たちにも理解し得る一面を備えたものも、けっして乏しくはない。私たちは、この宝庫をさぐって、かかる名作を逐次、美しい日本語に移して、彼らに贈りたいと思う。

もとより海外児童文学の名作の、わが国における紹介は、グリム、アンデルセンの作品をはじめとして、すでにおびただしい数にのぼっている。しかも、少数の例外的な出版者、翻訳者の良心的な試みを除けば、およそ出版部門のなかで、この部門ほど杜撰な翻訳が看過され、ほしいままの改刪が横行している部門はない。私たちがこの文庫の発足を決心したのも、一つには、多年にわたるこの弊害を除き、名作にふさわしい定訳を、日本に作ることの必要を痛感したからである。翻訳は、あくまで原作の真の姿を伝えることを期すると共に、訳文は平明、どこまでも少年諸君に親しみ深いものとするつもりである。

この試みが成功するためには、粗悪な読書の害が、粗悪な感触の害に劣らないことを知る、世の心ある両親と真摯な教育者との、広範なご支持を得なければならない。私たちは、その要望にそうため、内容にも装釘にもできる限りの努力を注ぐと共に、価格も事情の許す限り低廉にしてゆく方針である。私たちの努力が、多少とも所期の成果をあげ、この文庫が都市はもちろん、農村の隅々にまで普及する日が来るならば、それは、ただ私たちだけの喜びではないであろう。(一九五〇年)


★岩波少年文庫の歴史は60年を経ました。岩波のみならず講談社やポプラ社等の思い出深い子供の頃の読書体験は、今の私にとって如何に尊いものであったかと痛感している日々です。幼年期、小学生の低学年、中学年、高学年辺りの私の子供時代が時を超えて。思春期から20代は欧州文学に浸っていたのですが、30代後半頃から再び児童文学を読み返したくなり進行中です。相性の問題かとも想いますが、欧米や日本の様々な児童文学や児童文庫というものが好きなようです。子供の読み物と侮るなかれ!主役が少年少女ということも好きな要因ですが、彼らが作品の中で体験すること、想い考えること、家族や兄弟、友人や先生との交流の中で少しずつ成長してゆく様はやはり魅力です。ただ夢と希望があるだけではない、世界中にその時々に戦争という大人の起こした大変な状況下での少年少女たち(軍国少年たちにとっての思春期や青春でもあったと思いますが)、苦境の中での孤独や恐怖だってある。そして冒険譚も多くわくわくしながら、今ならその主人公を遠くから、そおっと応援できるのが嬉しいです。そして、岩波少年文庫に必ず記されていた「岩波少年文庫発刊に際して」という文章は、今の日本の情景とも私にはとても重なり合うのです。けれど、岩波少年文庫の創刊50年以後の刊行物では文章が変わりました。吉野源三郎氏は岩波書店の歴史にも欠かせないお方のお一人だと思いますが、60年以上も前に書かれた文が色褪せないのです。如何に普遍的なこと、想いが込められていたのだろう!とやはり胸が熱くなります。
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by claranomori | 2011-07-22 07:53 | 愛の花束・日本の抒情