『令嬢ジュリー』伯爵令嬢ジュリーと召使ジャン★著:ヨハン・アウグスト・ストリンドベリ(1888年)
2011年 04月 13日
舞台設定は1880年6月20日頃の夏至前夜から朝までの幾時間。北欧の盛大なお祭りが開催される。緑が色付き、花々は夏を一気に飛び越えて開花する。自然が人々の心と共に交響曲を奏でるかのような季節。貴族たちは豪奢な民族衣装を纏い舞踏会を開く。そこで、この伯爵令嬢ジュリーも気分が高揚し下男であるジャンをダンスに誘う。ジャンはダンスが上手く、ヨーロッパの貴族のお屋敷を転々としてきたのでフランス語も流暢。なんとなく不思議な魅力の持ち主である。身分の違う二人がダンスを踊り、その昂奮のままジャンの部屋へ。その時、父は不在であった。また、ジャンはクリスティンと婚約をしていたのだけれど、クリスティンもその夜は疲れ自分の部屋に休みに行った後の事。しかし、その後はジュリーとジャンの立場が逆転してゆく。ジャンの態度は傲慢になってゆき、錯乱状態になるジュリーに剃刀を差し向け、遂にはジュリーは自殺に追い込まれてしまう。
私はこのジャンが好きにはなれないし、ジュリーに感情移入もしない。けれど、ジュリーの少女時代を考えてしまう。ジュリーは美貌の女性である令嬢ながら、縁談をずっと断り続けていた。その理由には母親の影響がかなり色濃く反映されているように思う。平民の出身である母親は、伯爵からのたっての願いで結婚しジュリーを産む。けれど貴族の見栄ばかりの生活が嫌いで、ジュリーを男の子のように育てていた。この母親の娘時代は女性の自由や結婚制度の意義が問われ出した頃で、しかたなく妻となり母となる。こうした経緯ゆえ、我が娘には男性の奴隷になってはならぬと教育していたようなのです。この『令嬢ジュリー』のお話の悲劇には作者であるアウグスト・ストリンドベリというお方の人生も二重写しに感じられ、たいそう興味深いものでもあります。
※外国の人名等のカタカナ表記はややこしいです。ヨハン・アウグスト・ストリンドベリとかヨーハン・アウグスト・ストリンドベリ、ストリンドベリイやストリンドベルクと。さらに古くの翻訳版では『令嬢ユリエ』と題されたものもあったようです。今は『令嬢ジュリー』で通っていますが、スウェーデン語では『シュリ―』と発音されるそうです。北欧の言葉は殊に読み難いです。