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あまりにも私的な少女幻想、あるいは束の間の光の雫。少女少年・映画・音楽・文学・絵画・神話・妖精たちとの美しきロマンの旅路♪


by chouchou
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『幸福な王子』 あるいは 『しあわせの王子』 作:オスカー・ワイルド 絵:ウォルター・クレイン(1888年)

★今日もまた怖い夢をみた。夢の中で頓服を飲む自分の姿があった。ニュースや被災者の方々のメッセージから考えさせられることはあまりにも多い。1週間を経た頃だっただろうか...ある少女の表情が焼きついて離れない。津波に流され全壊したお家にご家族の方と向かい、想い出たちを持ち帰ろうとされていたようだった。ご両親と小さな弟さんが一緒だった。その少女は俯き青ざめていたように感じた。少女は10歳前後ではないだろうかと思う。さらに幼い少年は笑顔を見せてくれていた。一言に「子供」と言っても様々な性格があり環境も異なる。こんな悲劇の中でさえ、すべて公平ではない。私がその少女の姿に何かシンパシーを感じてならないのは何故だろうと考えてしまう。きっと、学校ではお友達と一緒で笑顔の愛らしい少女だろう。また、違うニュースの映像では、流れ着いたがれきの中にランドセルがあった。ランドセルには私もとても思い出があるので反応してしまう。6年間の小学校生活を共にした愛しき赤いランドセルだった。

私の幼い日の風景が巡る。確か小学二年生だったと思う。国語の時間にオスカー・ワイルドの『しあわせの王子』のお話を先生が読んでくださった。私は授業中にお話を聞き泣いてしまうことが幾度かあった。最も古い記憶は幼稚園で、多分その次がこの『しあわせの王子』。オスカー・ワイルドはとても大好きな作家なので、幾度か読み返すのだけれど、年齢によってこの有名な童話の魅力も異なるような。自分で購入したものは、『幸福な王子』と題されているワイルド童話の名作が詰まったもの。以前に『王女の誕生日』のことを綴ったけれど、やはり、どのお話も好き!
『幸福な王子』 あるいは 『しあわせの王子』 作:オスカー・ワイルド 絵:ウォルター・クレイン(1888年)_b0106921_1952813.jpg
オスカー・ワイルドの童話ではもっとも有名な作品なので読まれたお方も多いと思う。私が幼き日に感動した心と今では妙な妄想と共に作品は深まるばかり。けれど、美しい王子の像の、その体の一部である宝石や金箔をツバメに頼み、貧しい人々に与えるという崇高な心。また、エジプトへ向かう予定だったツバメは遂には寒い季節となり死に至る。輝く王子の像はすっかり灰色の像、その王子の足元にツバメの亡骸が...。もう美しくはない王子の像は見捨てられ、広場の像は市長の像に変えられる。像を炉で溶かすけれど、壊れた鉛の心臓だけは溶けない。議員や鋳物工場の人たちはその鉛をツバメの死骸を捨てた塵山に投げ捨てる。けれど、神さまは天使に「町中で一番尊いものをふたつ持ってきなさい」と言い、天使は鉛の心臓と死んだツバメを持ち帰り、天国の神さまの庭で彼らは共に。

「わたしが行くのはエジプトではありません。死の家に行くのです。死は眠りの兄弟です。そうじゃありませんか?」

そしてツバメは幸福な王子のくちびるにキスをし王子の足元へ落ちて死んでしまう。その瞬間に、何かが壊れたような、ぴしりという奇妙な物音が像の内側で響く。それは、鉛の心臓が割れた音であったという場面に心奮える感動を覚えたのは、大人になって読み返した折のこと。私は古典と呼ばれる文学に魅了され続けていて、好きな作品を読み返すことも多い。殊に19世紀辺りまでの作品。なので、最近の作品に疎い。けれど、本を読むという中で得られる、なんとも言えない心の彷徨や時間軸や空間を浮遊するかのような、あのトキメキ!温故知新という言葉も大好きなので、どうしても古い時代に心が赴くようなのです。

※アイルランド生まれのオスカー・ワイルド(Oscar Wilde)の童話集、『幸福な王子』の初刊は1888年。19世紀末に残され今も読み継がれる作品。上の絵は同じく19世紀の英国に生きたウォルター・クレイン(Walter Crane)による挿絵です。
by claranomori | 2011-03-31 09:51 | 童話・絵本・挿絵画家