『フランケンシュタイン』「あるいは現代のプロメテウス」著メアリー・シェリー★ゴシック小説と奇妙な生涯
2010年 11月 12日
メアリー・シェリーの父はウィリアム・ゴドウィンで、急進的な思想家でアナキズム思想の創始者。母はメアリ・ウルストンクラフトで『女性の権利の擁護』という本を書いたフェミニズムの創始者。けれど、母は娘メアリーを出産した10日後に死んでしまう。この母と同じ名を持つ娘メアリーは、16歳の折に英国ロマン派の詩人パーシー・ビッシュ・シェリーと恋におちる。けれど、シェリーには妻がいたので二人は駆け落ちをする。シェリーの友人のバイロンと共にスイスのレマン湖で過ごす中で、この『フランケンシュタイン』の構想が生まれたようでメアリーは18歳だった。完成初刊は20歳で、執筆時は妊婦で生まれた娘はクララという。けれど翌年死去。それまでにも、17歳で最初の娘を出産しているけれど未熟児で10日余りの命であった。18歳で男児を出産、名はウィリアム。三人目の子供となるクララの死後、一年も経たない間に息子ウィリアムも死去。22歳で出産した男児パーシー・フロレンスだけは健康に育った。けれど、メアリー24歳の折、夫のシェリーが僅か30歳の若さで水死(5人目の子供を流産してもいる)。そもそも不倫であった二人。シェリーの妻ハリエットが入水自殺をし、まだ20日しか経たぬ内に二人は結婚となった(メアリー19歳)。なんとも奇妙な死がメアリーの傍らには常に在るかのように...。
『フランケンシュタイン』(1818年)のお話。科学者ヴィクター・フランケンシュタイン博士が人造人間を生み出すことに成功するが、描いていた美しい姿ではなく醜悪な怖い容姿であった。けれど、この生み出された怪物の心は優しく人間と同じ言葉を話し(流暢にフランス語を話し、ゲーテなどの書物も愛好していた)、感情も持っていた。ただ醜悪な容姿が他者との距離を生んでいた。友達がほしいのに誰も彼に近寄らない。創始者であるフランケンシュタインへ、外見の醜さゆえに人から避けられ怖がられ嫌われることの悲哀を訴える。そして、そうした鬱積が憎悪となってゆく。果ては、ロシアの船の中フランケンシュタインを殺し自らも死へと赴く...。
色んな見方ができる小説に想う。ケン・ラッセル監督の映画『ゴシック』やゴンザロ・スアレス監督の『幻の城』、ケネス・ブラナー監督の『フランケンシュタイン』に、ビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』の挿話...これらの大好きな映画の場面たちが私には同時に浮かぶのですが、このメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』は科学の進歩への警告とも感じられますが、副題にある『あるいは現代のプロメテウス』がまた妙なのです。神話に登場するプロメテウスは、泥土から人間を創造した職人で、神々に反抗的な傲慢な性格でもあった。ユピテルの厳命に背き鍛冶場から火を盗み人間に与えた。激怒したユピテルはプロメテウスを山の頂に縛りつけ、大鷲に肝臓をついばませる。けれど、肝臓は夜の間に元通りになるので永久の苦痛を強いられた。最後には英雄ヘラクレスが大鷲を退治しプロメテウスを救う。また、プロメテウスの最初に造った女性の人間はパンドラである。パンドラが天からの箱を開けるとあらゆる禍いが溢れ出し地に落ちる。慌てて蓋をし残っていたものは「希望」だけだったというお話。
そして、盗んだ火から苦しむことになるプロメテウスは、さながらメアリー・シェリーの姿にも想える。シェリーの妻の自殺で晴れてシェリー夫人となったこと。罪は罰として我が身に返って来るもの。まだ10代の若きメアリーはシェリーを愛していたのだし、後の禍いは運命だったのだろう。そして、その後の自身の運命を予期していたとも想えない。けれど、何かメアリーには母親の死から以後、生と死、人間が生まれるということに希望と同時に不穏なものをも抱いて生きていたのではないだろうか...とも想う。