『劣等生』作:ジャック・プレヴェール(JACQUES PREVERT)詩集『ことばたち(パロール)』(1946年)より
2010年 11月 04日
彼は頭でノンと言う
けれど 心でウイと言う
好きなひとにはウイと言うが
学校の先生にはノンと言う
彼は立ちんぼうのまま
質問を受けている
すっかり問題が出そろうと
いきなり げらげら笑いだし
何もかも消してしまう
数字も 単語も
年代も 人名も
文章も 罠も
先生からはおどしつけられ
できる子たちにからかわれても
いろんなチョークで 彼はかく
不幸の黒板に
幸福の顔かたちを
訳:平田文也
★ジャック・プレヴェール(Jacques Prévert)は現代フランス文学(詩人)を代表するお方の筆頭であると想います(1977年没ながら)。この『劣等生(Le cancre)』は、『言葉たち(Paroles)』の中の大好きな詩の一つ。このプレヴェールの『ことばたち(パロール)』は1945年に熱心なリセの学生達が作ったものをプレヴェールに送ったのが最初で、やっとプレヴェール自身で初の詩集を公刊(1945年説と1946年説あり)することになったという経緯も微笑ましいです。上のお写真のように、「ジャック・プレヴェール」というと帽子に煙草姿。殊に煙草がないとプレヴェールでないようなくらいにイメージとして焼きついています。また、その辺にある紙切れを見つけては思いついた「ことばたち」を書いては、無造作に捨て歩くので、熱心なファン達はその紙を拾い集めていたという逸話まで愉快です。プレヴェールは小学校しか出ていなくて14歳頃から家計を助けるために働き出している。なので、生涯、プレヴェールというお方は庶民の中に生き、少年時代から大好きだった映画への愛から脚本を書き製作もされている。また、詩人でもあり童話作家でもある。愉しい語呂合わせで、風刺もあれば時には感傷的なもの、ユニークなシュルレアリスム的な詩もある。けれど、どれも生命への愛のようなものが流れている。それは生きることへの希望の光である。
友人のレイモン・クノーはプレヴェールを「善悪の天才」と呼んだ。また、ブロダンは「プレヴェールは詩を民衆と融和させるという奇蹟を実現したように思われる」と云った。プレヴェールの詩を数多く歌い、朗読したイヴ・モンタンを始め、多くのシャンソン歌手たちの歌声はそれぞれ魅力的。ジャック・プレヴェールはマルセル・カルネと映画を、ジョゼフ・コスマとシャンソンの名作を多数残された。プレヴェールの詩は映画的であり、かつ歌うようなことばたちであるのだから自然な功績となったのだろう。プレヴェールの詩を読むと心が爽快になりあたたかくなるのです。持っている詩集はすべて訳者が異なるのですが、この『劣等生』は『プレヴェール詩集』(1972年刊行)の平田文也氏の訳を引用されて頂きました。「ノンと言う」と「ウイと言う」という箇所が「いいえ」や「はい」よりも軽快な気分になるもので。まだまだ、プレヴェール関連のシャンソンや映画のことなどを書き留め予定です♪