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あまりにも私的な少女幻想、あるいは束の間の光の雫。少女少年・映画・音楽・文学・絵画・神話・妖精たちとの美しきロマンの旅路♪


by chouchou
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『涙を売られた少女』(1986年)★『笑いを売った少年』(1962年)の続編 著・ジェイムス・クリュス

『涙を売られた少女』(1986年)★『笑いを売った少年』(1962年)の続編 著・ジェイムス・クリュス_b0106921_841227.jpg
★第二次世界大戦が終わって10年余りたったある日のこと。語り手のボーイはハンブルグに向かう船上で、奇妙な鳥打ち帽の男性から「姪御さんのネレの物語」を書かないよう忠告される。けれど、遠縁のネレはハンブルグ中央駅近くのランゲ・ライエ通りに住むごく平凡な11歳の少女に過ぎない。幼い頃に、両親が離婚し今は教員の父親との二人暮し。母方のソーニャ叔母さんの居酒屋が家庭代わり。久しぶりにその居酒屋を訪れたボーイは「彼女は私と同じで泣くことができない。時代に合っているんだ」と電話で話す黒ずくめの痩せた紳士を目撃する。同じ日、ネレの天才的な歌声と踊りに驚嘆したレコードプロデューサーのマックス・マイゼがネレの父親と契約を成立させる。少女ネレは瞬く間に天才少女歌手と呼ばれ、世界的スターへの道を歩み始める。その過程でネレとボーイはショービジネスのイロハを体験することになり、スターの階段を上り、手に入るギャラの桁が増えるにつれ、ネレの心は不安定になり、しばしばパニックに陥る。丁度『笑いを売った少年』を書いていたボーイは黒ずくめの紳士が気になりネレが心配でたまらない。折良く再会したティム・ターラーが良い知恵を授けてくれそうな...ネレの涙を売ったのは誰?黒ずくめの痩せた紳士の目的は?なにより、ネレは笑ったり泣いたりできるようになるのだろうか?...というファンタジーであり、考えることの尊さを痛感する作品です。

「子どもたちに善悪の別を教えることはもちろん大切だが、私の最大の関心事は、善が悪に変わる可能性があること、どのようにして何時、善が悪に変わるかを教えることだ。つまり、昨日まで善であったことが今日を境に悪に変わりはじめる時があることを子どもたちに教え、その時を見極める力をつけてやることだ」

これが作者であるジェイムス・クリュスの最大の願いのようで、エーリッヒ・ケストナーと同様に、当初の教師になることを止め、子どもたちのための本を書き始めたという経歴のお方で、上記の言葉は『ある物語作家の略歴』(1965年)より。また、ケストナーとの親交も深い。ジェイムス・クリュスは「おはなし丸の船長」として親しまれているという。エーリッヒ・ケストナー、ミヒャエル・エンデと共に現在ドイツの3大児童文学作家とされている。

『涙を売られた少女』(1986年)が『笑いを売った少年』(1962年)の続編であること。私はいつも思う。しょっちゅう泣いている私はまたしょっちゅう笑ってもいるではないかって!これらの子どもたちのために書かれた小説は今の私にも生きる力を与えてくださる。「涙と笑い」はコインの裏表のようなもの。表裏一体のもの。苦しい現実の中をこうして笑っても生きていられる幸せに感謝したい。次々と困難なことがやって来るけれど、それは大人だけではなくて、子どもたちだって同じ。そこで「考えること」を学ぶというのか、「しあわせの世界」を頭に描きながら、考えながら生きてゆくことは困難に立ち向かう術でもあるのだと。似たようなことを、私は幸いにも子供の頃から両親と親しんできた本や映画の中から学んで来たと想える。

私はこの『涙を売られた少女』というタイトルと表紙の淡い色彩の絵(装画:大間々賢司)に惹かれて読みました。なので、続編から読んだことになります。先に書かれた『笑いを売った少年』も読むと、面白いくらいに「涙と笑い」が表裏一体であることに心が涼しくなりました。そんなものなのだ、人生は!って☆

『涙を売られた少女』(1986年)★『笑いを売った少年』(1962年)の続編 著・ジェイムス・クリュス_b0106921_726763.jpg『笑いを売った少年』作:ジェイムス・クリュス 訳:森川弘子★少年は最後にシャックリのついてくる、だれの心をも明るくしてしまうとびきりの笑いを持っていました。彼は三歳のとき、陽気で優しいお母さんと死に別れ、貧しい人々が暮らす裏通りのアパートに引っ越します。大好きな父さんは仕事で留守がちです。大人は皆そうですが、とりわけ訳の分からない継母や、わがままで意地悪な義兄さんとつらい日々を送っていました。日曜だけ、優しい父さんと競馬場に出かける日曜日だけは、まだ明るい笑い声を響かせていました。十二歳のとき、その父さんまで事故で失ない、天性の明るい笑いを忘れてしまいそうになりました。父さんの葬儀の日に出会った謎の紳士と取り引きし、どんな賭けにも勝てる力、つまり莫大な富と引き替えに、その素晴らしい笑いを売ってしまいます。やがて、富は幸せをもたらさないこと、笑いこそ、人生に不可欠のものだと思い知った彼は、十四歳で家を跳び出し、ハンブルクの港から、笑いを取りもどす旅に出ます…まだ笑うことのできる全ての人々のために。夢見ることが忘れられない永遠の少年達のファンタジー。そして、『涙を売られた少女』作:ジェイムス・クリュス 訳:森川弘子 はどちらも出版社:未知谷より発行されています。

※あとがきによると、この「ティム・ターラーのテーマ」は「百一日物語」シリーズ(全17冊)で、1956年から1986年作品として刊行されているそうです。残念ながら邦訳されたものは今のところ僅かですが、上記の2冊を読むことができる現状に感謝したいと想います♪
by claranomori | 2010-11-02 07:52 | 本の中の少女たち・少年たち