『ベニスに死す』★映画(ルキノ・ヴィスコンティ)と原作(トーマス・マン)を混同記憶しています♪
2010年 06月 10日
映画の『ベニスに死す』は何回観ただろう...観る度に想いが深くなるのだけれど。久しぶりにトーマス・マンの『ベニスに死す』を読みたくなって再読していた。やはり好きなあの場面も変わりなく...しばし私の心はここから離れてしまったかのようだった。
家庭教師か話相手かの役をする一人の女に監督されながら、籐の小卓のまわりに集まった、大人になりかかりの連中の一団がある。十五歳から十七歳までらしい三人の少女と、十四歳くらいに見える髪の毛の長い少年である。アッシェンバッハはその少年が完全な美しさを持っているのを見て驚愕した。蒼白く優雅にむっつりしている顔は蜂蜜色の髪にとりかこまれ、鼻筋は通り、口は愛らしく、優美で神々しいきまじめさをたたえていて、最も優れた時代のギリシャ彫刻を思わせるが、きわめて純粋な形式的完全性にもかかわらず、まことに比類なく個性的な魅力を持っているので、いまそれを眺めているアッシェンバッハは、自然のなかにも造形芸術のなかにも、これほどりっぱにできあがったものはいまだかつて見たことがないと信じたのである。
- トーマス・マン『ベニスに死す』より -