『暗殺の森』 監督:ベルナルド・ベルトルッチ 主演:ジャン=ルイ・トランティニャン、ドミニク・サンダ
2010年 05月 13日
原題の「IL CONFORMISTA」は体制順応主義者。ファシズムとコミュニズムの狭間で揺れ動く孤独なファシスト:マルチェロの心の動き。イタリアの一つの時代、反ファシズム闘争が幻想に過ぎず崩れていく様をこれ程までに美しく描いた作品を名作と呼ばず何と呼ぶのだろう?『ラストタンゴ・イン・パリ』と双璧を成すであろうベルトルッチ監督の60年代末から70年代作品の代表作である『暗殺の森』。しかしながら、私はドミニク様ばかりを追いかけてしまう。それはどの作品でも同じ。『1900年』はとっても長編作なので忍耐力が必要だったけれど、ドミニク様が現れると色彩がさらに美しさと陰影を増すのだ。白馬に乗り森を颯爽と駆けるお姿。高貴さと狂気が迸る奇妙な瞬間は嬉しくて仕方が無いくらいだった。
依怙贔屓たっぷりながら、「ドミニク・サンダ」という存在が"美"なのだ!大好きな女優さま!。残念ながら「70年代女優」と呼称される。しかしならが、70年代の作品群にあの美を刻まれた...それで充分。ブルジョワの気高き気品と反逆者でもあるかの様なあの眼。細すぎず決して豊かではない綺麗な肢体。そして波打つ長く美しい髪。完璧なる顎の線、ロマンティシズム溢れる眉、知性溢れる額、凛々しい口元....どこもかも全てが大好きなのだ。私の大切な美の世界に君臨するドミニク様を永久に愛す!
(1972年公開時のチラシより)
★上記の綴りは2004年に書いたもので(我ながらやや恥ずかしいです)、その後も観直しを幾度かしているので追記いたします。ジャン=ルイ・トランティニャン演じる主人公マルチェロを見つめることにします。このクールさ、孤独感はジャン=ルイ・トランティニャンならではのもの。ファシストに入党する人生、世間に逆らわずに生きてゆこうとするマルチェロの少年時代の心の傷。13歳の折に、男色の青年に犯されそうになり、思わず拳銃の引き金を青年に引いた。その日以来、殺人を犯したという罪の意識に苛まれていた。また、マルチェロの父は精神異常を来たしており、母はモルヒネ中毒。そんな存在を無視し、幼い頃の悪夢を忘れるためにも、体制に順応した"普通の人間"として生きてゆこうとしていた。プチ・ブルの娘ジュリアと結婚したのも、全てはそれらの悪夢から逃れるためであった。
舞台は1928年、時代はファシストが政府の実権を握り、黄昏のローマから夜明けのローマへという時代の狂気に巻き込まれてゆく頃。原作はアルベルト・モラヴィアの『孤独な青年』。またベルナルド・ベルトルッチ監督のみならず、美麗なカメラワークは全編に欠かせない手腕であるけれど、その撮影はヴィットリオ・ストラーロという黄金コンビ。
嘗ては大好きなドミニク・サンダを見つめるばかりの私であったのだけれど、まだお若いこの頃のステファニア・サンドレッリもとてもチャーミングなお方であると再確認して見所が増えるばかり。イタリア映画界の名花のお一人でもある。大して知性もないお嬢様ジュリアを可憐かつ甘美な佇まいで演じておられ素敵です。
1970年 イタリア/フランス/西ドイツ合作映画
監督・脚本:ベルナルド・ベルトルッチ 原作:アルベルト・モラヴィア 撮影:ヴィットリオ・ストラーロ 音楽:ジョルジュ・ドルリュー 出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、ドミニク・サンダ、ステファニア・サンドレッリ、ピエール・クレマンティ、ジョゼッペ・アドバッティ