『さすらいのジェニー』著:ポール・ギャリコ訳:矢川澄子★ピーター少年と雌猫ジェニーの純愛ファンタジー
2010年 10月 02日
女王さまたずねて ロンドンへ
ねこねこ子猫 なにとった?
階段の上の でぶねずみ
ねこねこ子猫 それどうした?
あとでたべます お弁当に
(スコットランドの子守歌)
★ポール・ギャリコ(PAUL GALLICO:1897年7月26日~1976年7月15日)はニューヨーク生まれのアメリカの作家ながら、イギリスやモナコ他、ヨーロッパ各地で過ごしながら多くの作品を残されたお方。代表作は『スノーグース』『さすらいのジェニー』『トマシーナ』『雪のひとひら』『ポセイドン・アドベンチャー』『七つの人形の物語』『トンデモネズミ大活躍』『ハリスおばさんシリーズ』『愛のサーカス』『ほんものの魔法使』...と多数。
私はポール・ギャリコの作品だと『スノーグース』を最初に読み、その次に読んだのがこの『さすらいのジェニー』で、中学生の頃にカフカの『変身』でたいそう衝撃を受けたので、ファンタジーとしての変身譚は好きになっていたのかもしれない。けれど、この『さすらいのジェニー』が面白いのは、猫好きの8歳の少年ピーター君がある日、子猫を追いかけていて大通りに飛び出してしまったために石炭輸送車にはねられてしまう。気がつけばピーター少年は純白の美しい猫になっていた。
現代のロンドン、それも交通事故による変身譚。それも、ピーター少年は人間としての少年の心のまま、見かけは立派な猫になってしまったのだから、戸惑いや困惑も当然起こる。そんな中、雌猫のジェニーと出会い、彼等の純愛物語として綴られてゆく。精神は8歳のロンドン少年であるので、なかなか雌猫ジェニーの愛をうまく受け入れられない。そんな中ボス猫と命がけの決闘に挑み、相手の息の根を止めるけれど、自分も負傷を負い死の暗闇に...。物悲しい最後はピーターという人間であることが意識として曖昧になりながら、否すっかりそんなことを忘れてしまって泣きながら読み終えるのであった。元のピーター少年に戻るのだけれど、彼にとって永遠の女性像として、雌猫ジェニーの姿が描かれている。そんな素敵なファンタジーの真骨頂とでもいうべき名作だと想います。矢川澄子さんが大好き!なので、先日も再読していたところです。私の読んだその『さすらいのジェニー』は大和書房版(80年代発売の上の画像のもの)です。今は『ジェニー』として新潮文庫も出ているようですが、そちらは未読です♪
上の「スコットランドの子守歌」は、この『さすらいのジェニー』の「事のおこり」の前に書かれているもの。子守歌って何でも好きな気がしています☆