『みずうみ』 著:テオドール・シュトルム★幼き日の少年ラインハルトと少女エリーザベト
2010年 08月 26日
月光の流れる部屋に散歩から帰って来た孤独な老人ラインハルトは、壁にかかった少女エリーザベトの肖像画を見入るうちに、幼き日の彼女との忘れえぬ思い出に耽り始める。清らかな愛情で結ばれながらも他郷の大学での勉学中に友人エーリヒとエリーザベトは結婚してしまう。この苦い現実に深い人生の悲哀を感じながら、その後も孤独を守り続けて老後を送っている老人の回想で、現在から過去、その嘗てから今という形式のリリシズム溢れる美しい小説。シュトルムは元来、抒情詩人でもあるのでお話の中に甘美な詩が幾つも出てくる。私はそんな詩たちが大好きなのです。
少女が5歳くらい、少年は10歳くらいの頃からの「幼馴染」~「森にて」の中の少年ラインハルトがノートに書いた詩。オランダイチゴを探しに森に出かけた幼き日の眩い光景の少年ラインハルトと少女エリーザベトを思い浮かべ、安楽椅子に座る老人ラインハルトの心を想う。
そよとの風もなく
しなだれる枝の
その下に乙女は憩う
あたりいっぱいに
タチジャコウソウのかんばしい香り
青い羽虫が ぶんぶんと
宙に舞ってきらきら光る
寂として音もない森
この子のかしこい目つき
とび色の髪の毛に
日の光が流れまつわる
遠くのほうから郭公の声
わがこころは思う―
この乙女こそ森の女王の
黄金のまなこ持てりと