『ヒアシンスと薔薇の花のメルヘン』 ドイツ・ロマン主義の象徴『青い花』★ノヴァーリス(NOVALIS)
2009年 10月 15日
『ザイスの弟子たち』は1798年に執筆され、これまた未完の書。その中に織り込まれた『ヒアシンスと薔薇の花のメルヘン』。暗い孤独感に包まれ森に佇む美青年ヒアシンスと、お互いに心が通じ合っていた「薔薇の花」と呼ばれる少女。ある老人に「だれにも読めない小さな本」を手渡され、ヒアシンスは美しい薔薇の花のことも忘れたかのように旅に出る。万物の母である、ヴェールを被った女神イージス(イシス)の居場所を求めて。泉と花たちに導かれてイージスの居場所へ辿り着く。壮麗なヴェールをとりのけるとそれは薔薇の花の少女にほかならぬものであった。(参照:宮下啓三訳)
この別れの後の再会。ここにもやはり少女ゾフィーの姿が見える。このゾフィーは「薔薇の花」にも『青い花』の娘マティルデにも居る。初恋の許嫁への想い、その早過ぎる死は悲痛なものであっただろう。けれど、現実を生き抜くために虚無を克服しようとする様は壮絶であるけれどメルヘンでもある。メルヘンとは甘美なものだけを意味するのではないとも想う。
このように記されている。悲しみの体験と追憶が静謐な美しさで満ちている。このようなロマンが心震えるほど好き。夜の静寂さとロマン派の絆は強い。また深い森も欠かせない。ロマンから光は放たれる。そうして、童話も生まれるのだろうし、アンチ・メルヘンとも呼ばれるカフカへとも繋がる。絶望の果てからの希望を求める姿。メルヘンとはドイツ語派生であり、その深い森の中で、あのナチスの迫害をも乗り越えて今も息吹くので興味は尽きない。お伽話や童話というのは子供のためでもあり大人にも感銘を与えるのだといつも想う。それらの世界とロマン派との絆も強い。そんな世界が大好きなので、束の間のこの季節にそれらを耽読してばかりいる。