『にんじん』 フランソワ少年と少女マチルド 監督:ジュリアン・デュヴィヴィエ 原作:ジュール・ルナール
2009年 10月 06日
私は今もとても古びた全集を納戸の最上段に並べている(取り出しにくい)。50巻あり、私が生まれる前から家の本棚に並んでいたもの。毎月、母が童話や伝記ものを定期的に並べてゆく家族用の本棚に既に並んでいた。また再読したいと想うのだけれど、その中の「フランス編」の中に『にんじん』があった。それは「世界児童文学全集」で子供向けに編まれたものだったけれど、私はあまり好きだとは想わなかった。ところが、時を経て、映画化されたジュリアン・デュヴィヴィエ監督の『にんじん』を観て何とも云えぬ想いを抱いたことで、再び原作を読み返した。読んだり観たりするタイミングによって大きく印象も感想も異なることはよくある。この『にんじん』のお話はどこから始めれば良いか迷う...。
すっかり夫婦仲の冷めてしまった後に生まれた次男のフランソワは「にんじん」と呼ばれている。赤毛でそばかすの多い少年ゆえに。母親は実子でありながら、この少年にだけ、愛情を持てない不幸な女性。長男のフェリックスを非常に可愛がり、長女のエルネスチヌにも優しい。不思議な位に「にんじん」を目の敵にしているのは、夫との愛情とのバランスからかもしれない。原作は特に淡々と簡潔な文体で、かつ鋭敏な観察眼で描写される。この小説はジュール・ルナールの体験(半自伝的)からのお話らしい。
そして、ようやく父と息子の心が通じ合う。父は「フランソワ」と呼ぶ。「にんじんは死んで生き返ったんだ」と。フランソワは父が好きだったけれど、母親が大嫌いであることを告げる。すると、ルピック氏は「わしがママを好きだと思っているのか?」と。その言葉を聞いたフランソワの眼差しは輝き、笑顔が表れる。「これからは二人は仲間だ」とお食事をし、フランソワは「ルピック氏」ではなく「モン・パパ」と云った。当たり前のことに想うのだけれど、複雑なこうした環境は多々あるだろう。
フランソワ少年を演じたロベール・リナンは、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の『我等の仲間』や『舞踏会の手帖』にも出演されている。『シュヴァリエの放浪児』、またマルク・アレグレ監督の『家なき児』は未見なのでいつか観てみたいと想う。けれど、22歳で死去されてしまった時代というのは運命なのか...。また、ルピック氏役のアリ・ボール、おじさん役のルイ・ゴーチェ共に素晴らしい俳優方であり、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の他の作品にも出演されている。※上の挿絵はフェリックス・ヴァロトンによるもの。
★映画『にんじん』と原作者ジュール・ルナール等の事をもう少し追記いたしました♪