夢野久作の小説の中の少女たち 『瓶詰地獄(瓶詰の地獄)』と『ルルとミミ』
2009年 09月 27日
その中の一つに『瓶詰地獄』あるいは『瓶詰の地獄』があり、初めて読んだのは二十歳頃だった。その哀しい運命になんとも云えぬ優しいものを感じながら涙した。頭の回転がとてもゆっくりしているもので、トリックの妙に感動したのは後からだったけれど。漂着した三つの瓶。その中に封じ込められた三通の手紙。その手紙で構成される物語。「私達」というのは市川太郎とアヤ子である兄妹。海難事件により南海の離島に流れ着いた二人は兄11歳、妹7歳で、そのおよそ10年後。二人は抱き合って身を投じるしかない運命。手紙にはそれまでの様子などが書かれている。漂着する3つの瓶は書かれた順序(時間)が逆転している。悲劇の結末からその発端となる順序で漂着する瓶。
夢野久作というお方は僅か10年程の執筆活動。この私の大好きな『瓶詰地獄』を前後して書かれたものにも通じるものが多く、どれも好きなもの。この『瓶詰地獄』の初出は1928年の『猟奇』10月号とされている。その折の題名は『瓶詰の地獄』(その後、《の》が付いたり消えたりするけれど、私は通常『瓶詰地獄』の方を好んでいる)。それ以前、夢野久作というペンネームを使う前の作品に『ルルとミミ』という、やはり兄と妹が身を投じる哀しいお話がある。こちらはよりお伽話のような童話作品でもある(初出は1926年『九州日報』3月~4月連載号だそうだ)。海と湖、水の中で死にゆく乙女の姿はまるで「オフェーリア」のようで、私の脳内幻想が煌めく。夢野久作はエドガー・アラン・ポーのファンであったそうだけれど、ポーの『瓶のなかの手記』というもの、そして、『ルルとミミ』というと萩尾望都さまの作品(こちらは姉妹)なども連想して愉快。
『押絵の奇蹟』や『ドグラ・マグラ』にも通ずるもの。その他にもある「近親相姦」というもの、「兄と妹」。夢野久作のお話の中の少女たちは死んでゆく。兄であったり少女であったりと道連れがいる。世間からすると許されない禁断の恋ゆえに。けれど、当の二人は意図してのことではない。すべて運命《さだめ》だというものに悲哀を想う。また、夢野久作の描く少女たちの、聖と穢を併せ持つような少女像が私には夢幻的で薄儚く映り好き。聖と邪...その狭間にあるものは、なんと深く魅惑的であることか!
そんな幻想に耽溺されたがゆえに、地獄に落ちなければならない少女たちがいたのであろう。『少女地獄』のこともまた★