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あまりにも私的な少女幻想、あるいは束の間の光の雫。少女少年・映画・音楽・文学・絵画・神話・妖精たちとの美しきロマンの旅路♪


by chouchou
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『バベットの晩餐会』 老姉妹マーチーネ(ビルギッテ・フェダースピール)とフィリパ(ボディル・キュア)

『バベットの晩餐会』 老姉妹マーチーネ(ビルギッテ・フェダースピール)とフィリパ(ボディル・キュア)_b0106921_10414960.jpg
ガブリエル・アクセル監督の1987年映画『バベットの晩餐会』は大好きな作品のひとつ。舞台となるのは19世紀後半のデンマーク、ユトランドという海辺の村(原作では、ノルウェイのベルレヴォーグという小さな町)に、初老の美しい姉妹と12年前にやって来た家政婦バベットが住む家。この姉妹の名はマーチーネ(ビルギッテ・フェダースピール)とフィリパ(ボディル・キュア)。姉妹の父は牧師で、敬虔な正統協会派を設立し、この宗派は国中に広まり厚い尊敬を受けていたお方。牧師の死後、年月が経ち、弟子たちも年老いて一派の名も薄れてゆく。けれど、彼等は共に集い、黄色い家に住む娘時代から知っているこの姉妹を愛していた。皆、清貧と禁欲を説くプロテスタント(ルター派)の亡き牧師の意志を継ぎ質素に生きている。しかし、嘗てこの姉妹は若き日(並外れて美しかった)に、お互いに恋焦がれる感情を体験している。結ばれることはなかったけれど、この映画の後には形ではない心の結びつき、永遠なる尊い心の通いを感じることが出来る。とても美しいと思う。それは、主人公であるバベット(ステファーヌ・オードラン)の牧師の生誕100年を祝しての晩餐会があってのこと。

バベットはフランス人。バベットはパリ・コミューンの戦乱により家族も財産も失い国外へ逃亡しなければならなくなった不幸な女性。質素な生活をしている姉妹に家政婦がいるのは不思議なことながら、この身寄りのない女性を姉妹は優しく受け入れる。バベットは姉妹への感謝の気持ちも込めて、初めてのお願いをする。”フランス流のお料理で晩餐会を”と。バベットは1万フランという大金をクジで当て、そのお金を一夜かぎりの晩餐会に全て費やすのだった。お金だけではない、嘗て、カフェ・アングレというお店の女料理長だったバベットのアーティストとしての精魂と共に。年老いた弟子たちは互いにいがみ合うようにもなっていた。けれど、牧師への敬愛心は失せない。この質素に暮らしている人々にとってフランスの豪華なお料理は理解できず、バベットに毒を盛られるのでは...とマーチーネは悪夢をみたりもする。しかし、嘗て心焦がした相手レーヴェンイェルム(ヤール・クーレ)と今は出世した将軍として30年ぶりにこの晩餐会で再会する。将軍はカフェ・アングレを知っているお方。皆は決して舌で味わうことはしまいと誓い合ったのだけれど、美味なるものを食しているうちに次第と心が和み豊かになる様は愉快。これぞ、バベットの晩餐会の真骨頂!宗教的な難しい対立はあったのだろうけれど、美味しいものは美味しい!美しいものは美しい!舌で味わう美味なる感覚とややグロテスクにさえ思える並ぶ芸術品でもある数々のお料理や一級品のワイン。老人たちの表情や会話が次第に柔和になってゆく様を静かに笑みをたたえながら悦ぶ姉妹。バベットは大金を使い果たしたけれど満足だった。そして、彼女がこの村にやってきた使命にも思えた。抑えた色調の美しい映像はフェルメールの絵のようだと言われる名作映画でもあり、アカデミー賞の外国語映画賞にも輝いたもの。私は綺麗事のように思われてもずっと思い続けていることでもある”豊饒”というものが伝わり、観ている私の心まで豊かになるような映画。”豊かさ”とは決してお金だけではない。お金持ちがすべて心豊かな人々であるとも限らないし、貧しい人々が心の狭い人々でもない。”心の贅沢”はお金ではない!大恐慌と言われる時代を生きているけれど、心まで貧しくなるのは虚しい。何が心を満たしてくれるかというと、やはり”美しいもの”であり”芸術”である私は今日もこうして生きてゆける。そして、老女(老嬢)もまた少女であるという思いを深めて愉しいのである☆
『バベットの晩餐会』 老姉妹マーチーネ(ビルギッテ・フェダースピール)とフィリパ(ボディル・キュア)_b0106921_10413316.jpg
バベットの晩餐会/BABETTES GASTEBUD
1987年・デンマーク映画
監督・脚本:ガブリエル・アクセル 原作:カレン・ブリクセン(アイザック・ディーネセン) 撮影:ヘニング・クリスチャンセン 音楽:ペア・ヌアゴー 出演:ステファーヌ・オードラン、ビルギッテ・フェダースピール、ボディル・キュア、ビビ・アンデルション、ヤール・クーレ

by claranomori | 2009-04-19 11:36 | 文学と映画★文芸・史劇