”もうひとつのヴァージン・スーサイズ”という宣伝を目にして反応しない訳はない。これは2003年のカナダ映画の『フォーリング・エンジェルス』というスコット・スミス監督作品。元軍人で暴君的な父親(カラム・キース・レニー)、結婚するまでは美しい天使の様な踊り子だったけれど、今はアルコール依存症で精神を患ってもいる母親(ミランダ・リチャードソン)、子供の頃から太っていて眼鏡をかけた内気で繊細な心を持つ長女ノーマ(モンテ・ギャグネ)、父親に反抗的で自分の意見を率直に言えるハッキリした気性の次女ルー(キャサリン・イザベル)、ブロンドの髪と艶やかなお洋服や髪型が愛らしい三女サンディ(クリスティン・アダムス)という5人家族。舞台はカナダの1969年から1970年という時代。テレビはジョンとヨーコの反戦運動の模様も映し出していた。ルーの夢は”パパの銃でニクソンを撃つ事”という台詞も出てくる。父親はソ連がミサイルを発射し放射能を防ぐためにと、一家には防空壕が作られ2週間そこで暮らした体験がある。家族それぞれにその時の思い出は今も引き摺っている。幼少時のこと。母親のバッグに大切に保管されていたある赤ん坊の写真と新聞記事を見つけるノーマとルー。”生きていたら21歳だわ”とノーマはその写真を今も隠し持ち、その兄に祈りを捧げている少女。原作を知らないので細かい部分に分からないことが残されているけれど、どうもその赤ん坊は事故で死んでしまったようだけれど、母親は今もその死に責任と悲しみを抱き続けているようだ。
三姉妹たちはノーマがもうすぐ卒業というのだから皆高校生だと想う。歳はほとんど近い姉妹たち。”お人形みたいだ”という既婚の男性と恋をする(双子の男性で結婚歴2回でどちらの妻もレズビアンだという)、そして懐妊してしまうサンディ。ルーはアメリカからの転校生の男の子に惹かれ、彼の影響で政治的、哲学的な話題をしながらLSDを。私が一番好きなのは長女ノーマで、彼女は母親の面倒をよく見ていて外出もできずお家の切り盛りをしてもいる。近所に可愛い同級生の女の子がいてノーマに挨拶する。遊びたくても遊べない...でも、後にふたりは抱き合いながらダンスをする場面があり、その時のノーマのはにかんだような嬉しそうなお顔。その少女はステラ(イングリッド・ニルソン)という同性愛者だという設定のようだけれど、この辺りの描き方はもう少し丁寧に描いていただけると嬉しいと想うけれど、想像するもの愉しいかな。
終盤、屋根の上に上り転落してしまう母親...この母親の死から回想してゆくというかたちでお話は展開される。その中で時々、彼女たちの幼少時(防空壕での生活の頃)と現在が揺れ動く。彼女たちの成長と思春期の多感な時期の心、そして家族というものを感じる。
『ヴァージン・スーサイズ』というよりも、時々
『ギルバート・グレイプ』を想起していた私。ノーマはお家の中を自分で改築して行く才能があり父親と仲良しである。サンディも華やかなお洋服はご自分で作るという才能が。ルーは最も社会にも反抗的ながら一番美人かな。幼少時の小さな子役たちがこの三人を演じている中で、ルー役のカルメン・フィールディングという少女がとても可愛くて印象に残っている。また、両親役のおふたりは英国俳優で、演技派女優のミランダ・リチャードソンは台詞は多くないけれど、やはり存在感があり素敵だった。キャサリン・イザベルは最初、観たことのあるお方だと想っていたら『素顔のゾーイ』(ミア・ファロー主演作品で観たもの)に出演していたお方であった。お話はやや散漫な気もしたけれど、母親の死は家族に大きい。けれど、反抗的だったルーが父親に歩み寄ってゆく最後の場面は好き、家族の再生というのだろうか。そして、姉妹はこれからも助け合いながら大人になってゆくのだろう...という光を感じるもので、それも良いと想った☆
フォーリング・エンジェルス/FALLING ANGELS
2003年・カナダ/フランス合作映画
監督:スコット・スミス 原作:バーバラ・ゴウディ 脚本:エスタ・スポルディング 撮影:グレゴリー・ミドルトン 音楽:ケン・ホワイトリー 出演:ミランダ・リチャードソン、カラム・キース・レニー、キャサリン・イザベル、キルスティン・アダムス、モンテ・ギャグネ、イングリッド・ニルソン